【第86回アカデミー賞】 「それでも夜は明ける」が作品賞ほか3部門、「ゼロ・グラビティ」が監督賞ほか7部門を受賞!
最多10部門でノミネートされた「ゼロ・グラビティ」と「アメリカン・ハッスル」、そして9部門ノミネートの「それでも夜は明ける」を含めた三つ巴と目された今年のアカデミー賞。終わってみれば大方の予想通り、「それでも夜は明ける」と「ゼロ・グラビティ」が作品賞と監督賞を分け合うかたちとなった。
アメリカの黒歴史とも言える奴隷制度の闇に真正面から切り込んだ「それでも夜は明ける」の作品賞受賞は、アカデミー賞がこの暗い闇から目を背けることのないリベラルな思想の持ち主であることの顕示であるようにも見える。実際、アカデミー会員の多くは政治的にリベラルな民主党支持者であるとされ、とくに近年はタブーに果敢に切り込む作品が評価される風潮にある。人種差別問題をテーマにした作品といえば、70年の「夜の大捜査線」や89年の「ドライビング Miss デイジー」など先例があるが、今回の「それでも夜は明ける」はその決定版という位置付けになるかもしれない。
また、「それでも夜は明ける」の受賞により、近年顕著なインディペンデント系映画の隆盛がより浮き彫りとなった。07年以降、昨年の「アルゴ」(ワーナー)を除く全ての作品がインディペンデント系映画という事実は、アカデミー賞がクオリティを何よりも重視する“批評家賞化”していることを如実に表している。かつて、クオリティと大衆性の双方が求められた時代のアカデミー賞であったなら、市場でも大ヒットした「ゼロ・グラビティ」勝利は間違いなかっただろう。今回の結果は、アカデミー賞が長い時代を経て様変わりしたことを決定付けることになった。
一方、大ヒットしたメジャー配給作品「ゼロ・グラビティ」も監督賞をふくむ最多7部門受賞と気を吐いた。批評家からも大絶賛で迎えられた本作の敗因のひとつは、宇宙を舞台とした“SF映画”のジャンルに属することだろう。60歳以上の老齢会員が多数を占めるアカデミー賞において、SF映画というジャンルは昔から冷遇されており、宇宙を舞台とした映画が作品賞を受賞した例は今まで一度もない。SF=絵空事という図式がいまだに払拭されていない証拠だ。
また、もうひとつの敗因は、脚本賞部門でノミネートされなかったことだ。過去に作品賞を受賞した映画は高い確率で脚本(脚色)賞を受賞しており、ノミネートすらされなかった例はほとんどない。この映画において脚本がウィークポイントだったということは全くないが、もしかするとここでもSF映画であることの偏見が得票に影響していたかもしれない。
2強が賞を分け合う中、割を食った形となったのが「アメリカン・ハッスル」だ。演技賞全部門でノミネートされるという快挙を成し遂げたものの、強力なライバルたちの後塵を拝し、結局無冠に終わってしまった。もっとも受賞確率の高かったジェニファー・ローレンスの助演女優賞は、やはり昨年ローレンスが受賞したばかりというのが大きなネックとなった印象だ。また、本命視された脚本賞部門でも、オリジナリティの強い「her 世界でひとつの彼女」に敗れた。これは、脚本賞部門でありながら実は同名の原作小説が存在することが得票の妨げになったかもしれない。
だが、無冠に終わった一番の理由は、おそらくデヴィッド・O・ラッセル監督の支持率の低さではないか。ラッセル自身も10年の「ザ・ファイター」から数えて計5度ノミネートされているので、決して支持率が低いことはないだろうと思っていたが、昨年の監督賞・脚本賞落選をみるかぎり、決して好かれてはいないという結論に至る。今後もラッセルの映画は高く評価されるだろうが、もしかすると受賞までこぎつけるのはずいぶんと先の話になるのかもしれない。