しゃべれども しゃべれども
監督:平山秀幸
脚本:奥寺佐渡子
出演:国分太一、香里奈、森永悠希、松重豊
配給:アスミック・エース
平山秀幸の作る平凡ながら自然な空気の流れる世界は心地よい。修行中の身にある落語家がひょんなことから3人のワケあり生徒を相手に話し方教室を始めることになるこのお話、シンプルながらツボを押さえた脚本と演出が素晴らしい職人技の光る一本だ。
いたって単純なプロットのもと、全く奇を衒うことない平山の基本に忠実な演出で物語は進む。ただ、平山が作り出す映画の空気はテレビドラマのそれとは確実に一線を画す上質なそれで、ちょっと作り話じみたお話もすんなりと受け入れられる。平山の演出がもっともわかりやすく画面に出ているのが、香理奈演じる愛想のない女・五月の両親の登場シーンだ。2人ともほとんど台詞もなく、自営の小さなクリーニング屋でもくもくと作業する様が描かれるのだが、働く彼らの姿には何とも表現しがたい説得力がある。あの短いシークエンスで親子の関係がなんとなく語られてしまうのだからすごい。
おそらく平山が現役の日本人監督の中でも最も優秀な部類に属しているのは、彼がこうした空気を作り出すことに長けているからに他ならない。奇抜な撮影手法も気の利いた台詞も必要ない。役者を映画に溶け込ませ、その世界の一部として違和感なく見せてしまう。そんな技量を持つ人は今の日本映画界にはあまりいない。映画の中心となる国分太一、香里奈、森永悠希、松重豊は皆一様に素晴らしく、特に主人公の落語家を演じる国分は普段バラエティ番組で見せる顔とは全く違う顔を見せ、観る者を驚かせる。香理奈の不器用さには胸が締め付けられ、森永の物怖じしない無邪気さにはハラハラさせられ、松重の野球解説には爆笑させられる。登場人物全てが愛しく、物語がずっと続くことを望んでしまう。そういえばアレクサンダー・ペインの「サイドウェイ」でもこんな感覚を味わったっけ。
癒しを求める人にとっては最適の一本だし、純粋にエンターテインメントとしても一級の面白さ。映画としての完成度は高く、誰もが愛してやまない作品だ。お金を払ってみる価値あり。