選挙
監督:想田和弘
出演:山内和彦、山内さゆり、小泉純一郎
配給:アステア
とにかく笑った。面白い。2時間のドキュメンタリーでこれほど楽しませてもらったことはないというくらい、楽しませてもらった。正直、もう1度金を払って劇場に足を運ぶなら、「スパイダーマン3」でも「パイレーツ~」でもなく、この作品を選ぶだろう。
ベルリン国際映画祭で話題になり、日本のニュースでも取り上げられた本作。川崎市宮前平区の市議補欠選挙の選挙戦を2週間にわたり“観察”した実録映画だ。映画の冒頭、田園都市線の某駅前にスピーカーを持って現れ、「自民党公認、山内和彦でございます」と挨拶を始めるちょっと気弱そうな痩躯の男。監督の想田和弘自らによるカメラが徹底的につけ回すことになる男だ。
当時40歳で、市議立候補前は気ままに切手コイン商を営んでいたという通称山さん。自民党の公認を受け、急遽縁もゆかりもない川崎市に落下傘候補として送り込まれることになる。小泉自民党が郵政民営化の是非を国民に問うこの選挙で山さんは慣れない政治の世界で悪戦苦闘!先輩政治家のセンセイ方や(にわか)後援会のスタッフに怒られながらも、決して腐らず懸命に選挙戦を戦っていく。この山さんの飄々としたオプティミストぶりが笑いを誘い、いつしか支持政党如何に関わりなく、彼のことを応援したくなってくる。
山さんという人物を描いた記録としても楽しいのだが、選挙戦の裏側密着ドキュメントとしても当然見どころ満載だ。有権者1人1人に握手して回り、時には市政のグチを聞かされる山さん。近所のおばちゃんに「ここ水はけが悪くてね…」と相談されると、「私が市議になったら一番に直しますよ」とノリで約束してしまう山さんに観客は爆笑しつつ、選挙戦の根本的な問題を見せ付けられるのだ。他にも、選挙戦ではなぜ奥さんのことを「家内」と呼ぶのか、雨の日に街頭演説に立つのは何故か、街頭スピーチの心得など、目からうろこの選挙戦トリビアてんこ盛りで2時間の上映時間を退屈に感じることは一瞬たりともない。
映画の準主役は山さんの「家内」こと妻のさゆりさん。選挙戦に私財を投げ打ち、「落選したら私ら一文無しだよ」と嘆いてみせたり、後援会スタッフに仕事をやめるように言われ、「市議選くらいでやめられるかって言うの。総理大臣になるっていうならいくらでも辞めてやるわよ」と旦那に向かって愚痴をこぼすリアルな活写がこれまた観客を爆笑の渦に巻き込む。それでも懸命に選挙戦に励む姿は凛々しく、観客からは山さん同様に愛されることになる。
一切の説明もナレーションもない“観察映画”だが、観客が説明不足に頭を痛めることはない。これは監督・想田和弘の卓抜とした構成力と絶妙な編集のなせる業だろう。逆に説明を排除することで、観客は目の前で繰り広げられる光景に自分なりの解釈をつける自由を与えられる。政治離れの進む日本において、おそらくこれほどまでに政治について考えさせる映画は今までなかっただろう。例えは悪いが、トイレをきれいに使ってもらうために「きれいに使っていただいてありがとうございます」と張り紙する逆説的な発想を思い出してしまった。
果たして山さんは市議に当選できるのか!?単純なエンターテインメントとして見るもよし、政治システムへの強烈な皮肉として見るもよし。とにかく、騙されたと思って劇場へ。