観客におもねるクサイ演出が違和感ありあり ― 「北の零年」レビュー
行定勲がなぜこの仕事を引き受けたのかわからない。
少なくとも、この壮大なる大河ドラマを彼なりの新しい感性で料理したかったというのが理由ではないようだ。
だったら何がしたかった?
これまでのキャリアで手がけたことのないジャンルに挑戦したかっただけ?既成の大河ドラマの焼き直しにしか見えない本作を見ているとそう疑わずにはいられない。
何しろ、今回の行定の演出はとにかくクサイ。あまりのクサさに笑ってしまう場面もあるほどで、役者の感性を作品の魅力に昇華してきたこれまでの行定作品とは似ても似つかないシロモノだ。
いくつか具体的に指摘するなら、香川照之のあの演技はなんだ?ニヤけ顔の鼻を親指でハネて悪巧みしてる様を表現してみたり、出されたお茶がぬるいとわめいてみたり。上手な俳優さんなんだから、あんなことさせちゃ可哀想ってもん。
それからあの”ええじゃないか”には正直引いた。笑えればまだ救いはあるのに寒すぎて笑えもしない。他にも、時間にしてほんの数秒で雪景色の中枯れ木に花 柄の着物を大量に結びつけるシーンなど、映画上のご都合主義が至るところに散らばっている。(上の画像参照。これをものの数分で完成させる)
でもこの責任を行定ひとりに負わせるのは可哀想だ。
満員の劇場を埋め尽くす高齢の観客を見て思い知ったが、彼らが期待しているのはやっぱりこういう映画なのだ。吉永小百合が健気にもかすかな微笑を浮かべ、周りも大仰な芝居で彼女の見せ場を盛り上げる。
これまで若年層に圧倒的な支持を受けてきた行定が、高年齢層をターゲットにした演出の答えがこれだったのかも。でもそれじゃ悲しすぎるよ監督・・・。