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大きいことはよいことだ、というアメリカの姿 ― 「スーパー・サイズ・ミー」レビュー

映画レビュー 記事:2005.02.10

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映画について語る前に、モーガン・スパーロックの魅力について語ろう。

マクドナルドを訴えたという2人の少女の記事を見て、1ヶ月間同社の製品だけを食べて過ごしたらどうなるか?なんていうバカげたことを思いつき、そして実行してしまったスパーロックという男。さぞかし無鉄砲で脳みその足りないジャッカス野郎かと思いきや、慎ましくやさしい恋人と同居するいたって常識的なナイスガイだった。

蓄えた口ひげが粗野な印象を与えるものの、本当は全く正反対の礼儀正しい男。この事実が、時にマイケル・ムーアほどの押しの強さに欠ける物足りなさを感じさせるが、その実、ムーアにない親しみやすさで取材対象から有用な情報を引き出す要因になっている。

「華氏911」を見てもわかるが、もはや全米でムーアの顔を知らない者はいないし、脛に傷のある人間なら誰もがムーアを避ける。周到に用意された事実と有 無を言わせない押しの強さで相手を追い詰めるムーアの取材対象へのアプローチが生む必然だが、それに対してスパーロックのアプローチは実にソフトで押し売 りがない。ポスト・ムーアと称される彼だがムーアとは一味違ったドキュメンタリー作家になれる資質がある

さて、そんな”バディと呼びたい男No.1″のスパーロックがタイプの違うムーアになぞらえられるのは何故なのか。

彼がこの映画で追求するのは、アメリカ人の食生活における大きな間違いと、アメリカの食品業界にはびこる金儲け主義が生み出す悪影響だ。この壮大なテーマ に対する映画の語り口は実にテンポよく軽快。スパーロックがこの無茶な冒険に踏み出す決意をするまでの経緯をシンプルかつ饒舌にまくし立てるオープニング は、この髭面の男が外見とは裏腹のキレ者であることを証明するに十分だ。

ここから先は誇大妄想癖のある管理人の勝手な解釈なので、興味半分に読み進めてほしい。

スパーロックが問題視する肥満現象は、アメリカという国の基本的な構造と、その構造が持つ致命的欠陥をよく表している。
広大な国土を持つアメリカは最強の軍事力と経済力で世界の王となり、そのパワーを誇示してきた。全てのものを貪欲に取り込んできたアメリカが「大きいことは良いことだ」という単純な思想のもとに権力を拡大してきたことは火を見るより明らかだ。現に今このときもアメリカは中東への権力拡大を目論んで終わる当てのない戦争に勤しんでいる。

外交に留まらず、国内の経済についても同じだ。今やアメリカで最も強大なパワーを誇るのは、儲け第一主義のモンスター企業ウォルマートで、徹底したコスト削減と店舗拡大でシェアを広げ続ける同社こそは、アメリカを象徴する姿と言っていい。

スパーロックは、食品業界においても同じ理論がまかり通っていると指摘する。ペプシコーラは売上げ拡大のため全米の学校に自販機を設置し、学校給食は大量供給が可能な栄養価の低いレトルト食品業者が牛耳っている。全ては企業の利益のため、アメリカ人の健康が危機にさらされていると映画は警笛を鳴らす。食生活における選択の自由は国民にあるが、選択肢が限られている状況で果たして本当に自由があると言えるのか?

今、アメリカはブッシュ政権の頑なな強硬姿勢への風当たり強く、世界中で反米感情が沸き起こっている。それでもアメリカは覇権を脅かす中国などの競争相手 を打ち負かすため、これからも権力の拡大を続けるのか。強いアメリカを繰り返し唱えたブッシュが二期目の大統領に選任されたばかりだが、多くの米国民が戦 争に反対しているように、「大きいことは良いことだ」という理念に疑問を唱える人間も数多くいる。民主主義の推進という大義名分を笠にきた覇権の拡大は本 当に必要なのか。アメリカ的な構造の欠陥を正し、改革に取り組むべきではないのか。

映画の最後にスパーロックはひとつの提案をする。

「とりあえず、スーパーサイズはやめないか?」

何とも大胆な提言ではないか。ポスト・ムーアと呼ばれる本当の理由はここにある。

ところでスパーロック、劇中でも熱いところを見せていた例の彼女と正式に婚約したそうだおめでとう、バディ!結婚式にはぜひ呼んでおくれ!


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