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したたかな計算に裏打ちされた高度な娯楽アクション 「ボーン・スプレマシー」レビュー

映画レビュー 記事:2005.02.11

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まるでこの映画は、主人公ジェイソン・ボーンのように計算高い。

この映画の最大の魅力は物語にリアリティがあることだが、よく考えてみれば、CIAの諜報活動の内幕なんて普段耳にすることもないのだから、本当はこの話のどこがリアルなのか観客に判断できるはずはない。
だが、理路整然と組み立てられた筋書きには説得力があり、一片の予定調和も感じさせない。多国語を操り、瞬時に敵をなぎ倒す主人公が現実離れして見えない のがこの映画の成功の秘訣なのだ。そして、全てが作り手の計算のうちにあることは、主演にマット・デイモンを抜擢したと言う事実だけで十分に推測できる。

成功の要因となった「生身の人間によるアクション」という作り手のコンセプトは作品全体を通して貫かれている。

例えばこの続編で、ボーンは地元警察の追撃をかわす際に足に傷を負う。傷と負うと言っても、少し高所から飛び降りたときの衝撃で足を痛めた程度なのだが。だがしばらく、ボーンはこの地味なアクシデントのために足を引き摺って歩くことになる。芸が細かい。

また、ハリウッドの続編製作のルールを無視するスタイルにも計算が見てとれる。あくまで物語を語ることに重点を置き、不自然な爆破シーンやスタントを好ま ない。逆の論理が横行するハリウッドシステムにおいては極めて異質なやり方だ。だがおかげで、この映画はその他大勢の娯楽大作とは明らかに一線を画した独 特のジャンルに分類された。このことが批評家を喜ばせ、結果的に興行的な成功につながることになる。何ともしたたかな計算だ。

したたかと言えば、ヒロインにフランカ・ポテンテを起用したことにもその一端が見える。
ポテンテ扮するマリーは前作でほぼ出ずっぱりの活躍を見せたものの、続編では早々に姿を消すことになる。これがもう少し名前と実績ある女優なら、この結末 には納得しなかっただろう。だが、ドイツ映画「ラン・ローラ・ラン」で成功をおさめて前作に抜擢されたポテンテには、まだハリウッドでの実績がなく、この 結末にいちゃもんをつけるだけの権力がない。
これも作り手の計算とするのは勘ぐりすぎだろうか。少なくとも、続編の冒頭で命を落とすヒロインにハリウッドで名のある女優をキャスティングしなかったことに何の思惑もなかったとは考えられない。

一方で、計算が裏目に出たかと思われる部分もある。ジョアン・アレン扮するCIAのパメラ・ランディがボーンを追うことになる理由を映画の冒頭でご丁寧に説明する部分だ。

ロシアのユコスならぬペコスという石油組織のボスがボーンに濡れ衣を着せる一部始終を最初に説明することで、観客はランディがいつか事実に気付き、ボーンに救いの手を差し伸べることが予想できてしまう。
つまり、ランディに敵としての脅威はなくなり、彼女を相手にした駆け引きはやや緊張感を失う。(しかもジョアン・アレンには敵という匂いがしない。もう少しトゲのある女優のほうが適役だったかも。例えばヘレン・ミレンとか。)

ランディの背後にトレッドストーンの影がチラついていたほうがサスペンスを維持できたのではないか。ペコスがただの飾りで、ボーンにとってはCIAが敵と なる展開なら、せめて中盤まではことのカラクリを語らずにおくという方法もあった。記憶をなくした男が主人公なら、情報の一部を隠すことで観客にもボーン と同じ不安を与えることが出来たはずだ。

とはいえ、この続編が極上のエンターテイメントであるという評価に変わりはない。大抜擢となった監督のポール・グリーングラスは、前作の意思を汲みスピー ド感あふれるアクションを撮りあげた。格闘シーンでの手持ちカメラによるブレが、ときに必要以上に焦点を失ったきらいはあるが、ほとんどのシーンでその演 出は的確で、とてもこれがハリウッドデビュー作とは思えない。クライマックスのカーチェイスはかの名作「フレンチ・コネクション」のそれと並び称されて然 るべきインパクトがある。(車同士の接触の衝撃を車中からカメラで捉えるとは!)
グリーングラスにはマイケル・ベイの約10倍の才能がある。

ラスト近くの、ボーンの贖罪と救済のドラマも簡潔だが感動的だ。強烈なインパクトを残したカーチェイスの後で、本作が物語を語るための作品であることを思い出させる。ランディの情報に一片の救いを見出したボーンは今後どんな行動を起こすのか。

早くも気持ちは第三弾に移り始めている。作り手の計算にまんまとハマってしまったようだ。


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