ムーアが示す意外な問題解決の道 ― 「シッコ」レビュー
マイケル・ムーアはこれまで一貫して、大きな敵を設定し、その敵に果敢に対峙することで問題解決の糸口を提示してきた。「ロジャー&ミー」ではGM社会長のロジャー・スミス、「ボウリング・フォー・コロンバイン」では国民を恐怖に陥れるメディア、そして全米ライフル協会会長のチャールトン・へストン、「華氏911」ではブッシュ政権という具合に。
アメリカの医療制度には明らかな欠陥がある!これまでのムーアなら、利益追求にために暴走する民間保険会社を敵と設定し、その偉いさんたちに突撃取材をかましたに違いない。だが今回のムーアはちょっと様子が違う。満足に医療を受けられない患者たちをキューバのグアンタナモ米軍基地に連れていくなど相変わらずのパフォーマンスを見せるものの、誰かを悪人に見立てて攻撃するようなことはしない。ムーアは、誰かを責め立てることより、国民一人一人の助け合いの精神を喚起することに問題解決の道があると信じたようだ。
皮肉屋のムーアが信じたこのちょっとセンチで意外な解決策に思わず涙がこぼれる。これまでのムーア作品に比べると刺激の強さでは劣るものの、この先与えるであろう影響度という点では一番かもしれない。誰もが心打たれる一本だ。