ジョン・レノンのファンは見ないほうが賢明 ― 「チャプター27」レビュー
マーク・デヴィッド・チャップマンは何故ジョン・レノンを殺したのか――。チャップマンが愛読したというJ・D・サリンジャー著「ライ麦畑でつかまえて」の構成を模して、レノン殺害までの3日間が描かれる。チャップマンのモノローグで進行するこの映画、冒頭で幼少時代の虐待が仄めかされるものの、「そんなことは大した問題じゃない」と語らせてバッサリ切り捨てる。そんな具合だから、チャップマンがどんな人間なのかという謎は映画を見ても解明されることはない。映画はひたすら、チャップマンが3日間に感じた心情だけを追いかける。
この試みは、映画としては正しいアプローチだ。チャップマンの生い立ちを語れば、おそらく平凡な分析が語られる退屈なシロモノに仕上がっていたことだろう。問題はそこじゃない。彼が決断するに至った心情こそが謎なのであって、そこに焦点を絞った物語は至極的を射ている。
ただ、結果、チャップマンの行動全てを映画が説明しきれたかどうかは評価の分かれるところだろう。大幅な増量で役柄に臨んだジャレッド・レトの演技は鬼気迫るものがあって説得力もあるが、結局は精神を病んだ異常者と片付けてしまっていると言えなくもない。
この映画、ジョン・レノンのファンは見ないほうがいいかもしれない。ジョンが撃ち殺されるシーンなんて見たくないだろうし、それ以上に、ジョンの楽曲がカケラも流れないからフラストレーションが溜まる。鑑賞後は陰鬱な気分になること確実の一本だ。