戦うジョンとアメリカの陰謀に焦点を当てた記録映画 ― 「PIECE BED アメリカ VS ジョン・レノン」レビュー
この手のドキュメンタリーには、有名人の知られざる素顔というやつを期待してしまうが、この映画にはそうしたワイドショー的要素はない。ビートルズ時代から1人反体制的だったジョンは、皆が記憶している、あるいは伝聞で想像しているジョンのままだ。それは、いかにジョン・レノンという人が自らを包み隠さず世界に向けて発信していたかを今更ながらに認識させる。PIECE BEDの後、ジョンはヨーコににポツリともらしたと言う。「すごいよね。僕らの歌が世界中で流れるんだ。世界とコミュニケーションを続ける。それが僕らの道だ」
100%ジョンとヨーコの側に立った記録映画だが、アメリカ移住を機にジョンが反体制派の活動家たちに“道具”として使われていたなどの厳しい分析も。興味深かったのは、当時ジョンをマークしていたFBIの担当捜査官に対するインタビュー。過ちを悔いる素振りを見せる一方で、活動家を蔑んで悦に浸っていた当時を思い出してほくそえむ。ジョンはそうした権力に対していつでも牙を向き、努めて平和的に争いを解決する道を模索した。
ただ、映画はジョンと権力者たちの戦いをメインテーマに据えているため、ジョンとヨーコの私生活については意図的に言及を避けている。結果、ジョンの苦悩が一面的にしか描かれず、ジョン・レノンという人間よりも、彼の周りで暗躍した権力者たちの陰謀がクローズアップされる作りとなった。全体の構成が少々ちぐはぐになったのは残念。