サラリと流すディテール描写にセンス光る ― 「ある愛の風景」レビュー
不安だ。この映画をジム・シェリダン監督がリメイクすると言う。シェリダンはとても優れた監督だが、果たして隙なく完成されてしまっている本作を作り直すことなど出来るのか?
兄弟と1人の女の三角関係が軸となるメロドラマチックな物語を、デンマークの女流監督スザンネ・ビアは手持ちカメラによるドキュメンタリータッチで紡ぎ出す。ドグマ作品「しあわせな孤独」で知られるビア特有の、これでもかという役者の顔のアップ(というより顔のパーツのアップ)で、登場人物たちの感情が生々しく画面に刻み込まれる。ビアの演出が素晴らしいのは、こうした主張の強い演出よりもむしろ、故意にサラッ流したディテール描写だ。狂乱した夫から逃げる妻の裂かれた衣服、泥酔する弟に染み付いた鼻血の跡、団欒の場でふいに取り残された老夫婦が見せる居心地の悪そうな顔など、一切の説明なしにカメラに映し出される“日常”がリアリティを演出する。
また、メロドラマなプロットでありながら抑制された脚本も絶妙な匙加減。窮地に追い込まれた人間の絶望を描きながら、微かに希望の火を灯す優しい眼差しにも心打たれる。
シェリダン版は、狂気に走る兄にトビー・マグワイア、兄の妻と心を通わせる弟にジェイク・ギレンホールが予定されているようだ。いかにも繊細そうな若手2人の起用でオリジナル超えを狙うが、おそらく彼らの才能を持ってしても・・・・・・うーん、不安だ。