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全ての面において最高を極めた、最強のハリウッド映画 ― 「ボーン・アルティメイタム」レビュー

映画レビュー 記事:2007.11.11

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このシリーズの売りは、徹底的な肉弾戦、リアリズム、スピード感、決断力、実戦テクニック、ダビデ対ゴリアテ的構図など様々。ドラマ面においては、ボーンという主人公が超人的な頭脳・体技を誇りながらも、観客の感情移入しやすい背景を持つことが大きな魅力になっている。

こうした様々な魅力を有する前二作もかなりよく出来た良作だったが、シリーズ最終章と謳われる本作は、それらを遥かに凌駕する大傑作に仕上がっている。このジャンルではもはや超えることが難しいレベルに達してしまった。

まず脚本が圧巻。前作「ボーン・スプレマシー」のクライマックス近く、ロシアを舞台にした追跡劇から物語がスタートする。そして6週間の後にボーンはNYに上陸し、パメラ・ランディにアクセスを試みるのだが、これが実は「~スプレマシー」のラストシーンにつながるのだ。パズルのピースがぴたりと嵌るようなこの卓越した構成力には舌を巻く。ヨーロッパを中心に次々に舞台を変える展開の速さも小気味良く、細部まで練りこまれた構成とは対照的なシンプルな物語のおかげで観客が混乱を覚えることもない。

ポール・グリーングラスのリアリティ重視の演出ぶりにもますます磨きがかかる。映画のひとつの肝である高度な実戦テクニックをサラリと流し、飽くまでその場の勢いを重視する。砕けたガラスの飛散した塀をとっさに洗濯物のタオルを手に巻いて飛び越えたり、車の衝突シーンではインパクトの瞬間に助手席のシートベルトにその身を絡めたり。そのさりげない演出には唸らされてばかりだ。格闘シーンにも更なる進化が見て取れる。タンジールの住居の一室で展開される工作員との格闘はこの映画の白眉だ。身近にある本を使いタオルを使い、命からがらに強敵を仕留めるその戦いぶりには、うそ臭さが微塵も無い。2人がガチンコで殺しあう緊張感に満ち溢れている。

新キャストとなるデヴィッド・ストラザーンについては、冒頭ちょっと違和感を感じた。もともと感情表現がそれほど豊かではないストラザーンだけに、ニヒルなボーンの相手役としてリアクションに物足りなさがあった。ただ、ニッキー暗殺をめぐってパメラ・ランディと口論を繰り広げる段になって、この冷徹な組織人間の怖さが露になる。キレたら何を仕出かすかわからない恐怖はストラザーンのキャラクターと演技力をもって初めて表現可能になったものだ。秘密を握る記者役のパディ・コンシダイン、マリーの兄役としてワンシーンだけ顔を出すダニエル・ブリュール、黒幕の2人スコット・グレンとアルバート・フィニーなど、チョイ役がやたら豪華なのは大ヒットシリーズとしてのご愛嬌か。

マット・デイモンはかねてから本作でシリーズの打ち止めを宣言しているが、脚本のクオリティが保たれるのならば、是非とも続行を希望する。これほど興奮させてくれるハリウッド大作は他にない。CG全盛時代に逆行するこのシリーズのチャレンジングな姿勢の何と凛々しいことか。こういう映画があるから、ハリウッド映画を見るのは止められない。


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