「潜水服は蝶の夢を見る」のオスカー・ポテンシャルは?
本日、作品を鑑賞。高い前評判に違わぬ素晴らしい出来で、特に自然な脚本と技巧的で美しい撮影には目を瞠った。全身不随の男が主人公ということで、アメナバール監督の「海を飛ぶ夢」と比較されるのは避けられないが、アカデミー賞外国語映画賞受賞の同作と比べても遜色ない出来(個人的には「潜水服~」が断然好み)。アメリカの批評家にも今年一番の評価を受けているだけに、アカデミー賞戦線での活躍も期待されるが、果たしてポテンシャルはいかほどか?
実はこの映画、フランス映画ながら、監督はブルックリン生まれ、脚本家はロンドン育ち、撮影はスピルバーグ映画の名手、製作もこれまたスピルバーグの同胞と、実はかなりアメリカ映画の要素が強い。外国語映画というハンデは必要以上に意識しなくてもいいかもしれない。今回は外国語映画部門ではエントリーしていないだけに、作品賞部門での候補も十分にありそうだ。
カンヌで監督賞を受賞したジュリアン・シュナーベルも当然有力候補。画家出身という珍しいキャリアの持ち主で、その美的センスはさすが。映画監督作はまだ3本目とキャリア浅いのが不安要素だが、才能は前作「夜になるまえに」で実証済みだ。
キャストではやはりマチュー・アマルリックが素晴らしい。わずかに動く体の部位を駆使しての感情表現は「海を飛ぶ夢」のハヴィエル・バルデムと比較しても全くヒケをとらない。主演男優賞部門の有力コンテンダーと見ていいだろう。ただ、主演女優賞部門でも同じフランス人のマリオン・コティヤールが有力視されているだけに、フランス贔屓を嫌う向きから敬遠される恐れもある。
主人公の別れた妻を演じるエマニュエル・セニエもよい。全身不随の元夫を見つめる優しい眼差しの中に、愛人の元に走った彼に対する消し去れぬ負の感情が同居する。数多い共演女優陣の中では出色の演技。また、主人公の父親役を演じるマックス・フォン・シドーも出演シーンはわずかながら忘れ難い演技を見せる。助演男優賞部門で十分勝負になる。
他、脚本、撮影部門ではかなりの有力コンテンダーとなるだろう。脚本は、ロナルド・ハーウッド(戦場のピアニスト)が書いた英語の脚本がフランス語化されたようで、そのあたりの脚色がどう判断されるかが鍵。撮影は名手ヤヌス・カミンスキー。主人公視線の映像はかなり技巧的で唸らされる。これほどキャラクターと同化したカメラはお目にかかったことがない。ノミネートされなければウソだろう。