“闇の騎士”の苦悩を極限まで突き詰めた生真面目な寓話 ― 「ダークナイト」レビュー
濃い。ひたすら濃い。まるでキャンバスを1点の隙間もなく漆黒で埋め尽くさんとするかのような濃さ。ガッチガチに計算し尽くされた脚本は、人間心理の極限を描き出すことが最優先。ヒーローものであることを忘れたかのような濃いドラマにただただ圧倒される。見た目に派手な見せ場もふんだんに盛り込まれているが、最大の楽しみは主要キャラクターたちの信念の対決。特にヒース・レジャーが一世一代の熱演を見せるジョーカーと、悪の一掃を誓う熱血検事ハーヴィー・デント(アーロン・エッカートが素晴らしい)の対決には手に汗握る。
2時間半を超える長尺は要素を盛り込みすぎのきらいもあり、極度の緊張から解放される鑑賞後にはずっしりとした疲労が残る。もう次はないと言わんばかりの気合のこもった力作は、娯楽作としては落第かもしれないが、映画としてのクオリティは超一級。ヒーローものの定義を覆す生真面目なドラマは、明らかにライトな映画ファン向けには作られていない。ジョーカーなら「Why So Serious?」と嘲り笑うだろう。興行的な成功を義務付けられた中でのこの野心的な挑戦には、心から拍手を贈りたい。