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第81回アカデミー賞 結果所感

アカデミー賞 記事:2009.02.23

下馬評通りの強さを見せて「スラムドッグ$ミリオネア」が8部門を独占する圧勝。ノミネートされた9部門のうち、賞を逃したのは「ダークナイト」に譲った音響編集賞のみというほぼパーフェクトな結果だ。トロント国際映画祭で見出されるまでは、DVDスルーの危機さえあったと言われるこの小品が受賞したことは、表現としては適切ではないが、まさにアメリカン・ドリームと言っていい。主人公ジャマールが受けたあたたかい声援と同質の支持を、この映画も一身に浴びることになった。
イギリス資本で物語の舞台はインドのムンバイ、アメリカでの配給はインディ系のフォックス・サーチライトと、過去のデータでは不利とされる要素大集合にも関わらずの今回の圧勝劇。過去数年立て続けに名作を送り出してきたフォックス・サーチライトにとっては念願の作品賞初受賞となる。
この映画がこれほどまでに支持されたのは、やはり経済的にどん底の不況にあえいでいるアメリカが、他国の物語に強烈な「夢」と「説得力」を見出したからではないか。違った側面で問題を抱えるインドという国の歴史と現状に触れ、多少なりともシンパシーを感じることがあったかもしれない。そこへきて純真無垢な主人公ジャマールが登場し、一攫千金とともに幼馴染の女の子と運命の恋を貫くというサクセス・ストーリーが、疲れたハートにグサリと刺さったのだろう。穿った見方をすれば「バカげたファンタジー」で終わらせることも出来るこの物語にこれほどまで熱狂するということ自体、アメリカのバックグラウンドが音を立てて軋む様を象徴しているような気がしてならない。
そんな風潮が「おくりびと」の外国語映画賞受賞をも後押ししたとすれば、この逆転受賞も説明できる。本命視されたのは、レバノン戦争の記憶を辿る主人公の姿を追ったドキュメンタリー「戦場でワルツを」。多彩な色彩で綴られるアニメーション映画だが、語られる内容は相反して重厚そのもの。90分の上映時間を終えるとぐったりと疲労が襲うへヴィーな作品だ。他の候補作も軒並み暗い過去・現状を描いたものばかりで、「おくりびと」は唯一後味のよいヒューマン・ドラマだった。然るべき受賞だったと言えなくもない。
授賞式自体が、不況に苦しむアメリカに光を!とばかりに豪華絢爛に底抜けに明るく設計されていたように、アカデミー会員たちも自分たちの投票結果によってアメリカ国民に、もしくは世界中に対してポジティブなメッセージを発信したかったのではないか。「スラムドッグ$ミリオネア」や「おくりびと」はその思惑に敵った素材だった、というのもあながち間違った推理でもないように思える。
一方で、「スラムドッグ」過剰支持の裏で泣きを見たのが「ミルク」や「ダークナイト」といった、映画の完成度でははるかに上をいく傑作たちだ。「ミルク」が主演男優賞と脚本賞、「ダークナイト」が助演男優賞と音響編集賞をそれぞれ受賞したが、本来であればもっと多くのオスカー像を受賞していい作品。「ミルク」は作品、監督賞、「ダークナイト」はほとんどの技術賞を独占していい存在だった。もし仮にアメリカが好景気に沸いていたら……時代や人間の暗部を描いたこれら2作品はもっと評価されていたに違いない。
ともあれ、2年連続で独立系配給会社の作品が作品賞を受賞するという結果に終わった。アカデミー賞は明らかに芸術志向の高い賞にシフトしてきており、今や独立系映画であることが受賞のハンデとして認識される時代は完全に終わりを告げたと言える。その反動がいつ現れないとも限らないが、メジャー配給会社が芸術志向の映画を傘下の配給会社に依存している今の体制が続くようなら、独立系優位の傾向はしばらく変わらないだろう。


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