真実を超えたフィクション - 「レスラー」レビュー
いたってシンプルなメロドラマなのに、強烈に胸を打つこの感動は何なのか。真実を超えたフィクションが存在しうることをこの傑作は証明した。
映画を傑作たらしめているのは何と言ってもミッキー・ロークの存在。迫真の演技、というよりも自身のすべてを注ぎ込んだ”人間”ロークの生き様が心を熱くする。これまでいくつものレビューで使ってきた”ハマリ役”という表現をすべて撤回したくなるほど、孤独なレスラーを演じたロークは役にハマっている。
正直言えばストーリーテリングもカメラワークも突出した魅力はない。ダーレン・アロノフスキーは得意とする奇抜な演出スタイルを捨て、不器用なひとりの男の生涯を不器用な手つきで描いてみせる。この潔さが映画の魅力と言っていい。