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【考証】「ヒックとドラゴン」は何故日本でコケたのか?

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(C)2009 by PARAMOUNT PICTURES. All Rights Reserved.

本国アメリカでは今年の3月に公開され、国内だけで2億1700万ドルを売り上げる大ヒットとなった「ヒックとドラゴン」(原題”How to Train your Dragon”)。2010年公開作品として現在7位の大ヒットで、CGアニメ全体でも史上13番目、ドリームワークスアニメとしては「シュレック」シリーズを除けばもっとも成功した作品となっている。また、批評家からの評価もすこぶる高く、来年のアカデミー賞では、ライバル「トイ・ストーリー3」と最優秀長編アニメ部門で争うことが確実だ。

本国で輝かしい成功を収めたこのアニメが、本国の公開から半年を経て満を持して日本公開されたわけだが、441館という拡大公開にも関わらず、最初の週末の興収はたったの1億3000万円と悲しい結果となっている。なぜこれほどまでにコケてしまったのか?いくつか理由がありそうなので下に挙げてみよう。

1.公開時期のミスチョイス
日本では夏休み時期を狙って8月7日に封切られたが、これが完全なミスチョイス。約1ヶ月前の7月10日に封切られた「トイ・ストーリー3」がいまだ猛威を振るい、2週間前にはジブリの新作が公開されファミリー層を軒並みかっさらった。子供をつれて映画館に行く親にとっても、1ヶ月のうちに3本はトゥーマッチで、「ヒック」が選択肢から外れてしまうのは自然なことだ。

2.タレント稼動のふざけた宣伝
Twitter上でも槍玉に上がったが、人気下降気味のお笑い芸人を起用したプロモーションが、スベるだけならまだしも、映画に泥を塗った。ドラゴンの名前”トゥースレス”(「歯なし」を意味)が、芸人の持ちギャグに合わせて真逆の意味の”トゥース”に変更されるという、前代未聞、呆れ果てる暴挙に出た結果、映画ファンからの反発を買った。

3.早期プロモーション展開
実は「ヒック」の日本でのプロモーションは驚くほど早期から展開されていた。劇場アタッチの予告編は、全米公開前から日本でも上映され、知名度の低い作品の刷り込みを何とかして行おうという意図が見て取れた。しかし結果的にこれが完全に裏目。全米公開された「ヒック」は予想をはるかに超える大ヒット。結果論だが、全米での成功をもっと前面に押し出す宣伝にすべきだった。

4.焦点の定まらない作品訴求
ドラゴンの飛翔シーンなど、これぞ映画館体験ともいうべきダイナミックな映像が売りの本作だが、宣伝ではドラゴンとの友情物語にシフトしすぎて「映像体験」の部分がほとんどアピールできていない。偽3Dが横行する現状において、それでも「3Dで見るのに最適な映画」という評価すらある中で、映画館で見るべき映画という打ち出しができなかった。

5.カッツェンバーグのプレッシャー?
これは完全な推測だが、ドリームワークスTOPのジェフリー・カッツェンバーグからのプレッシャーで、この映画をハズすわけにはいかないという事情があったのでは。異常なまでの早期からの刷り込みや、ドラゴンの役名変更というなりふり構わない宣伝を見ると、本国からの圧力が相当厳しかったのでは?と少し同情を覚える。

おそらく10年前なら放っておいてもヒットしたはずの作品だが、洋画全体がシェアを失っている現状では、普通の宣伝をしていても「踊る3」や「アリエッティ」には太刀打ちできないという焦りが配給にもあったはず。ヒックやトゥースレスのキャラクターデザインがいかにもアメリカ的で日本人受けしないという”欠陥”はあるものの、それさえ克服すればヒットさせられるはずの素材だった。「トイ・ストーリー3」のバカ当たりは「ヒック」陣営にとって不幸な出来事だったし、同情すべき点はあるが、それでもCGアニメ史上に残ると言われる名作を闇に埋もれさせてしまったのは事実。日本の映画宣伝は、今回の失敗事例に大いに学ぶべきだ。


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