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外国映画が元気を取り戻すには?(シンポジウム)

column 記事:2011.07.29

GTF主催トーキョーシネマショーのシンポジウムにて、”外国映画が元気を取り戻すには?”という議題による討論を拝聴。映画ジャーナリスト大高宏雄氏の司会にて、ソニー・ピクチャーズ日本代表の佐野哲章氏アスミック・エース社長の豊島雅郎氏TOHOシネマズ社長の中川敬氏が意見を交わした。
まず大高氏より現状の邦高洋低についての説明があり、TOHO中川社長が数字でそれを裏付ける。大高氏が洋画の翳りを感じたのは、97年の「ロストワールド/ジュラシック・パーク2」が「もののけ姫」に惨敗を喫したシーンを目の当たりにしたときだとのことだが、中川社長によると、実際には2002年に洋画の絶頂期があり、それ以降徐々に洋画が力を失っていったとのこと。邦画隆盛の象徴的な存在である「踊る大捜査線2」の公開が2003年なので、やはりその頃を機に力関係が変わってきたようだ。


さらに、諸氏は洋画の売上げ低下の原因は、独立系洋画の弱体化にあると指摘。確かに2001年公開の「アメリ」大ヒット以降、独立系洋画のヒット作は年々減っている気がする。ミニシアター系の代表格、恵比寿ガーデンシネマの閉館も独立系洋画の弱体化を象徴する出来事だった。ミニシアター隆盛期であれば大ヒットしたであろう作品も、近年では全く鳴かず飛ばず。恵比寿ガーデンシネマでウェイン・ワン監督の「スモーク」が大ヒットしたような例など、今では逆立ちしても起こりえないだろう。
この現状に対して、独立系アスミック・エースの豊島社長は、独立系洋画の商売の難しさを指摘。洋画の買い付け価格は年々下がっているが、劇場公開後のDVDセールスなどの二次利用収入の後ろ盾がなくなり、収益構造が崩れたことが大きな要因だとした。また、大手配給ではアプルーバル上難しいような宣伝を行うことでヒットにつなげてきた手法も、それを受け取るユーザー環境の変化により通じなくなってきているという事実も実感しているようだ。
では、洋画、特にアメリカ映画自体の訴求力が弱まってきているのか?という疑問について、SPEの佐野日本代表はNOと回答する。事実、アメリカ映画の世界興収は年々うなぎのぼりで、いわゆる10億ドルクラブ入りする作品もポンポンと生まれている。世界的にはアメリカ映画の人気は絶頂期といっていいほどの盛況だという。ただし、良くも悪くもアメリカ映画は続編とリメイクのヒットで成り立っているとし、その原因は宣伝をゼロからしなくて済むからだと言及した。裏を返せばそれは、アスミック豊島社長が実感している宣伝の難しさを証明するもので、このインターネット時代に最適化した宣伝手法を見出せていないことが原因とも言える。現アスミック特別顧問で、SPE佐野代表の上司でもある原正人氏の時代は、マスの宣伝手法で悪く言えば観客をだます、ミスリードすることも出来たが、今の時代では通用しない、ごまかしがきかないとのことだが、クチコミの土壌があるインターネット時代においては当然のこと。逆に言えば、粗悪品は淘汰されて本物だけが生き残る環境にあるということなのだが、残念ながら現状の映画宣伝ではソーシャルメディアなどのクチコミ土壌をうまく活用できておらず、本物を浮かび上がらせるシステムが整っていないため、興行につながっていない。
また、シネコンによるアメリカスタイルの収益構造も独立系洋画の弱体化を招いているのでは?という意見も。シネコンのスクリーンを大作が独占し、独立系映画の入り込む余地がなくなっているという指摘だ。これに関してSPE佐野代表は、3D映画の台頭が大きく関係していると説明。現状、3D映画1本につき、各興行に対して3D字幕、3D吹替え、2D字幕、2D吹替えの最大4本のプリントを用意していると言う。つまり1本の3D映画で最大4スクリーンを独占することになる。本日公開の某3D大作も800スクリーン近くを独占しているが、はっきり言って800もスクリーンは必要ない、と断言。確かに3D映画で4スクリーンもとられるくらいなら、独立系洋画の1本もかけてほしいところだ。
では、邦高洋低の現状を打破するためにはどうすればよいのか?
これについてTOHO中川社長が興味深い意見を披露。現状の映画総人口は1億7000万人と言われているが、実は全興収のうちの70%は1500万人のコアユーザーが支えているとのこと。映画業界は、この1500万人に対してもっと手厚いホスピタリティを発揮すべきでは?という提言だ。昨年大成功した”午前10時の映画祭”はまさにそうした試みの一環で、第1回は60万人、第2回も100万人の動員を見込んでいる(残念ながらフィルムの都合で第3回開催が難しいかもとのことだが…)。さらに中川社長が強く望んでいるのは、予告編を販促ツールとしてもっと活用すること。現状すでに”予告編なう”というサービスをYahoo!映画上で展開しており、ユーザーが自由に予告編を観られるインフラを提供している。今後はさらに、公開にだいぶ先駆けて予告編を上映し、早期からの刷り込みを行うことが大切だとし、各配給には”早い時期に、短い予告編を”リクエストしていると言う。
この”1500万人優先志向”を推し進めるということであれば、先の3D映画によるスクリーン独占は全く逆の方向なので、すぐに改善が必要だ。空いたスクリーンで高品質のヨーロッパ映画などを上映し、バラエティ豊かなラインナップを提供することこそ、目指すところのはずだ。新しく新宿歌舞伎町に出来るTOHOシネマズでは独立系洋画も率先して上映していく意向のようだが、そうした施策が洋画復活の鍵を握るのかもしれない。(独立系洋画はローカルで弱いという事実もあるが)
シンポジウムでは他にも、映画料金についてや金曜初日の是非についてなど、興味深い議論が多数なされたが、1時間余の限られた時間では到底議論し尽せるはずもない難題であり、こうした議論の継続が必要なことを強く感じた。


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