【第84回アカデミー賞 受賞予想】 長編ドキュメンタリー映画賞は本命不在の混戦
長編ドキュメンタリー映画賞
■ Hell and Back Again
アフガニスタンの戦場で負傷して帰郷したアメリカ海兵隊員が、妻に支えられてリハビリ生活を行う様子を追ったドキュメンタリー。サンダンス映画祭で2部門受賞。
■ もしもぼくらが木を失ったら
“エコテロリスト”と呼ばれる過激環境保護団体ELFの元メンバーがオレゴンにある製材会社に放火。果たして彼は声なき自然の代弁者なのか、それとも過激な活動家なのか。東京国際映画祭で上映。
■ Paradise Lost 3: Purgatory
93年、アーカンソー州ウェスト・メンフィスで起きた少年の殺人事件で逮捕され、十分な証拠もなしに有罪判決を受けたた3人のティーンエイジャーたちに迫ったドキュメンタリー。シリーズ3本目となる本作では、18年の投獄生活の末、不当な取引により釈放されることになる彼らの姿を追う。
■ Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち
2009年にこの世を去った天才舞踏家ピナ・バウシュが遺したものとは。彼女が芸術監督を務めた舞踊団のダンサーによる躍動感あふれるダンスを、ドイツの巨匠ヴィム・ヴェンダースが革命的な3D映像で捉えた作品。
■ Undefeated
ある負け犬フットボールチームが、1人の監督の手によって生まれ変わっていく様を追ったドキュメンタリー。
この10年は実に様々なジャンルの映画が受賞している長編ドキュメンタリー部門。ペンギンの生態に迫った動物モノ(皇帝ペンギン)があれば、元アメリカ合衆国副大統領が環境破壊に警鐘を鳴らすエコ作品(不都合な真実)や、綱渡りに命を賭けた男の生涯を描いた実録モノ(マン・オン・ワイヤー)もある。また、一昨年の受賞作「ザ・コーヴ」は日本のイルカ漁を激しく糾弾した作品で、敵意むきだしな内容に多くの日本人が面食らったのも記憶に新しい。
今年もバラエティに富んだ候補作が揃った。中でも「Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち」は特異な一本といえる。この部門で3D作品がノミネートされたのはおそらく初めてのことではないか。この10年の多種多様ぶりを見ると、この作品がもっとも受賞にふさわしい気もする。ヴィム・ヴェンダースという巨匠のネームバリューも得票に一役買うだろう。
ただし、この部門でもっとも注目されるべきは「Paradise Lost 3: Purgatory」だ。ウェスト・メンフィス3と呼ばれる3人の囚人の物語を18年に渡って追い続けた執念の記録で、今回が3本目の映画となる。殺人事件の容疑者として逮捕された3人のティーンエイジャーが18年の投獄の末に出所する様を描く今回の映画は、これまでの映画の集大成と呼ぶべきもの。作り手たちの執念がオスカー像となって報われることになるだろう。
◎ Paradise Lost 3: Purgatory