生まれる ― 「ゼロ・グラビティ」レビュー
※このレビューにはネタバレが含まれています。
これは宇宙空間を神秘なる母胎に見立てた、生命誕生のドラマだ。
冒頭、飛行士たちを予期せぬ事故が襲うまでの短いシークエンスで、映画はこの先の“奇想天外な”冒険の主となるストーン博士のパーソナリティを端的に説明する。
ジョージ・クルーニー扮するおしゃべりで気のいい男コワルスキーが、「宇宙のどこが好きだ?」と聞くと、ストーンは「静寂」と答える。娘を亡くし、生きる意欲をなくしたストーンにとって、宇宙は生の義務から解放された安らげる場所。もはや地球に彼女の生き場所はなく、死を望んでいることが暗示される。死を望むはずのストーンをそれでも襲う恐怖は、自らが望む先のリアルな触感に起因している。
偶発的な事故により本物の死に直面したストーンは、コワルスキーの差し出す救いの手に必死ですがりつく。しかしそれは生還への意欲ではなく、死からの逃避にすぎない。彼女はコワルスキーとの間につながれた、まるでヘソの緒のようなロープを断ち切ることができず、生還への道を拒否しようとする。