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【第86回アカデミー賞最終予想】 作品賞を制するのは「ゼロ・グラビティ」か?「それでも夜は明ける」か?

アカデミー賞 記事:2014.03.02

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この10年、アカデミー賞はそのアイデンティティを模索して絶えず揺れ動いている。もともとは作品のクオリティも高いが一般受けもする映画を好んで評価し てきた。2000年代以降も「グラディエーター」「シカゴ」「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」など娯楽志向の強い大作が受賞していたが、04年あた りから風向きが変わり始める。その年、作品賞部門で本命視されていたのは、レオナルド・ディカプリオ×マーティン・スコセッシが2度目のコンビを組んだ大 作伝記映画「アビエイター」だった。スケールも大きく、市場でも受け入れられたこの映画は、当時の潮流からすれば作品賞を受賞してもおかしくなかったが、 結果はクリント・イーストウッド監督によるメッセージ性の強い小品「ミリオンダラー・ベイビー」の勝利だった。その翌年、作品賞を競ったのは、アン・リー 監督が同性愛というタブーに挑んだ「ブロークバック・マウンテン」と、LAという人種のるつぼで孤独を抱える人間たちのアンサンブル劇「クラッシュ」。ど ちらもインディペンデント系スタジオが作った予算規模の小さな批評家受けする作品だ。

06年こそディカプリオ×スコセッシの大ヒット作「ディパーテッド」に賞を与えたものの、その翌年からアカデミー賞はかつてない“批評家賞化”を見せ始め る。07年の作品賞受賞作はコーエン兄弟の「ノーカントリー」。ひと昔前ならコーエン兄弟作品というだけでオスカー受賞はナシと断じられたものだが、批評 家たちが愛し、市場が突き放したこの怪作をアカデミーは受け入れたのだ。これを機に、堰を切ったように批評家受けする小品が台頭し始める。08年の受賞作 もインディペンデント系映画「スラムドッグ$ミリオネア」。09年はなんと史上No.1ヒット作「アバター」を、アカデミー賞受賞作史上もっとも市場で無 視された「ハート・ロッカー」が破るという天変地異が起きた。その後の2年もインディペンデント系映画が作品賞を受賞(「英国王のスピーチ」「アーティス ト」)。批評家賞化に歯止めはかからなかった。

この事態にアカデミー協会は危機感を募らせる。映画ファンの多くが観ていない作品が評価されるこの機運は、そのまま授賞式の視聴率低下につながっていたか らだ。協会にとって授賞式のスポンサー収入は大きな拠り所なだけに、事態の改善に向け協会は大胆な措置をとる。作品賞ノミネート枠の増加だ。インディペン デント映画が2年連続で作品賞を受賞した翌年の09年、協会は作品賞ノミネートを10枠に増加。批評家賞化は止まらなかったが、作品賞候補のなかには市場 のヒット作が数多く見られるようになった。そしてようやく昨年、大手スタジオのヒット作「アルゴ」が作品賞を受賞して、07年以来5年間続いていたイン ディペンデント系作品の連続受賞は止まった。

そして今年―。3本の有力作がしのぎを削ると言われているが、実際には2強と見ていいだろう。「それでも夜は明ける」と「ゼロ・グラビティ」の対決だ。そのうち、前哨戦でもっとも実績を残し、下馬評で本命視されているのは、またしてもインディペンデント系映画「それでも夜は明ける」だ。同作は北米配給をキャンペーン上手のフォックス・サーチライトが担当しており、受賞に向けた準備に抜かりはない。批評家が愛し、市場ではそれほど人気を得ていない同作は、07年以降の傾向にピタリと当てはまる作品と言っていい。

一方、大手スタジオであるワーナー配給の「ゼロ・グラビティ」は批評家から絶賛され、市場でも2億5000万ドルを超える大ヒットを記録した。市場=映画ファンが望むのは「ゼロ・グラビティ」の受賞だが、果たしてアカデミー会員たちはどんなジャッジを下すのか。昨年の「アルゴ」が流れを変える分岐点だったとすれば、今年は「ゼロ・グラビティ」が受賞するだろう。逆に「アルゴ」が批評家賞化の潮流のなかで偶然生まれた突然変異だったとしたら、栄冠を勝ち取るのは「それでも夜は明ける」になる。

そういう意味で、今年会員たちが下すジャッジは、今後10年単位でのアカデミー賞というアイデンティティを推し量るうえでとても興味深い。流れはどちらにあるのか。批評家賞化を止め、映画ファンの関心をアカデミー賞に引き戻すのに「ゼロ・グラビティ」ほどの適任はない。協会としても市場で人気を博し、批評家にも絶賛されたこの歴史的成功作の勝利を願っているのではないか。もし「ゼロ・グラビティ」が勝利すれば、SF映画として初、3D映画としても初、ワーナー・ブラザース配給映画の連続受賞、そしてジョージ・クルーニーが絡む映画の連続受賞となる(昨年はプロデュース作「アルゴ」が受賞)。

お膳立ては整った。

最終予想
◎ ゼロ・グラビティ
○ それでも夜は明ける


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