創造することは美しい ― 「インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌」レビュー
※このレビューはネタバレを含みます。
類いまれな才能に恵まれながらも時代に埋もれた、女好きでお人好しの憎めない男。これは現代のモーツァルトを描く物語だ。
コーエン兄弟がモーツァルトを念頭に置いていることは明らかだ。冒頭、主人公ルーウィン・デイヴィスが猫のいる家で目覚めると、背後ではモーツァルトが作曲した死者のためのミサ曲(ラクリモーサ)が流れている。また、ルーウィンが遠路はるばる会いに行くプロデューサー役を演じるのは、映画史に残る傑作「アマデウス」でモーツァルトの宿敵サリエリを演じたF・マーリー・エイブラハムだ。
うだつのあがらない主人公が猫とともに過ごす一週間を描く映画は、客観視すれば他愛のない出来事の連なりでしかない。主人公は劇中で重要な転機となる旅路を辿るのだが、最後にはまた一週間前の思考にもどり、繰り返しの日常に身を委ねようとする。