人間は表層の常識を演じているのか ― 「アクト・オブ・キリング」レビュー
とある家屋の屋上。白いコンクリートが打ちつけられた無機質なこの場所で、男はかつて人を殺したと得意げに話す。「最初は殴り殺していたが、血が飛びちる から針金で首を絞める方法に変えたんだ」。効率のいい殺し方を発明したから褒めてくれと言わんばかりの得意顔。観客はこの男に狂気を見る。
しかし、冒頭のそれが男の狂気ではなかったことが次第に明らかになるにつれ、この映画が訴える本当のおそろしさを知ることになる。殺人行為を正当と疑わず、むしろ過去の栄光と位置づけ平然とする男。それが大きな間違いであることになぜ男は気付かないのか。
なぜなら男は“口実”を持っているからだ。こういう理由があるから殺してもいい。口実という絶対的な許可証を手にしたとき、男は別人格をつくりだし、殺人という非人間的な行為を“演じる(アクト)”ことを許されたのだ。