だからウェス・アンダーソンは愛される ― 「グランド・ブダペスト・ホテル」レビュー
今回もいつものウェス・アンダーソン世界だ。凝りに凝ったデザイン、シンメトリーな画面構成、高速パンするカメラ、チャプター分けされた物語、オールスターキャスト、感情の希薄な台詞まわし等々。期待したとおりの世界が面前に広がる。
予想を裏切る驚きも、教訓となるメッセージもない。なのになぜ、ウェス・アンダーソンの映画はこんなにまで愛されるのか。
前 作「ムーンライズ・キングダム」はウェスの代表作といっていい快作だった。独特の世界観と物語がきれいにシンクロした前作は、“こどもたちの感受性”とい う主題をおとなたちが全力のイマジネーションで描き出すという行為自体が美しく、失ったこども心に対する憧れを隠さない一方で、一流の技術と経験値でおと な力を見せつけるそのギャップもまた何とも魅力的に映った。