第87回アカデミー賞ノミネーションリスト
↑「おい!オレを呼んでおいてゴーン・ガール無視かよ!」
と叫びたいに違いないホストのニール・パトリック・ハリス
今年もサプライズ満載で驚かせてくれたノミネーション発表。「ゴーン・ガール」のほぼ無視、「LEGOムービー」の落選、「かぐや姫の物語」ノミネート、ブラッドリー・クーパー3年連続、注目していたあの作品の落選などなど、言いたいことは山ほどあるのですが、まずは部門ごとに所感を簡単にコメントします。
■作品賞
アメリカン・スナイパー
バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)
6才のボクが、大人になるまで。
グランド・ブダペスト・ホテル
イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密
Selma
博士と彼女のセオリー
セッション
最多ノミネートを争うと予想されていた「バードマン」と「グランド・ブダペスト・ホテル」が仲よく9部門でタイ。この2作品を配給するのは同じFOXサーチライト。このブランドは昨年も「それでも夜は明ける」で作品賞を受賞、その他にも「ブラック・スワン」や「ファミリー・ツリー」、「スラムドッグ$ミリオネア」などを送り出しており、今年もアカデミー賞戦線での強さを見せつける格好となった。
前哨戦を快走した「6才のボクが、大人になるまで。」は6部門ノミネートと控えめだが、これは半ば予想されたことで不安視する必要はない。最多ノミネートの2本と比べると外見で見栄えする作品ではなく、技術部門での苦戦は想定内。むしろ取るべきところをきっちりと取ってきたことは評価されていい。
「イミテーション・ゲーム」もやはり強かった。アカデミー賞との相性抜群のトロント国際映画祭観客賞はダテではなく、予想を上回る8部門でのノミネートとなった。もともとはレオナルド・ディカプリオが製作に乗り出したこともある企画で、今ごろレオは歯がみしているに違いない?
落選組は「ゴーン・ガール」「Nightcrawler」「フォックスキャッチャー」など。
特に「ゴーン・ガール」の落選は衝撃。司会に同作の出演者ニール・パトリック・ハリスを迎え盛り上げ体制と思いきや、主演女優賞以外全シャットアウトという驚きの結果となってしまった。
「フォックスキャッチャー」はもともとこの部門では苦戦が予想されていたが、意外や監督賞にノミネートされていることで、逆になぜ作品賞で落選したのか首をかしげる。演技賞にも2人のノミニーを輩出し、計5部門という予想を大きく上回る結果を手にしているのに何故・・・?
■監督賞
ウェス・アンダーソン(グランド・ブダペスト・ホテル)
アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ(バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡))
リチャード・リンクレイター(6才のボクが、大人になるまで。)
ベネット・ミラー(フォックスキャッチャー)!!!
モルテン・ティルドゥム(イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密)
長編劇場映画3作目のベネット・ミラーが2度目のノミネートという最大のサプライズ。オスカー会員はどれだけベネット・ミラーが好きなんだと。前哨戦ではまったく名前が挙がっていなかっただけに、まさに不意を突かれるサプライズ選出。驚いた。
落選組はデヴィッド・フィンチャー(ゴーン・ガール)、クリント・イーストウッド(アメリカン・スナイパー)、デイミアン・チャゼル(セッション)ら。「アメリカン・スナイパー」は計6部門でノミネートされながらイーストウッドは無視。御大の支持者は多いはずだが、2度の受賞歴があるからもういいよね?ということか。
■主演男優賞
スティーヴ・カレル(フォックスキャッチャー)
ブラッドリー・クーパー(アメリカン・スナイパー)!!!
ベネディクト・カンバーバッチ(イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密)
マイケル・キートン(バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡))
エディ・レッドメイン(博士と彼女のセオリー)
ここも驚きの結果に。まずスティーヴ・カレル。有力視はされていたものの、コメディ映画を主戦場とすることが少なからずマイナス評価されるだろうと予想していたが、逆境を跳ね返し見事に初ノミネートを手にした。オスカー会員からの反感もジム・キャリーほどはないようだ。
そしてブラッドリー・クーパー。前哨戦ではほとんど実績を残していないので正直厳しいと思っていたが、これで3年連続のノミネート。「ハングオーバー!」シリーズの印象も強いが、実はとても真面目で演技に打ち込むタイプらしい。そのあたりの人柄が得票に結びついているのかもしれない。
そしてベネディクト・カンバーバッチがみごとに初ノミネート。下馬評で下位に位置していた2人のサプライズがあったことからも、彼自身も薄氷のノミネートだったことがうかがえる。
落選組はジェイク・ギレンホール(Nightcrawler)、デヴィッド・オイェロウォ(Selma)、レイフ・ファインズ(グランド・ブダペスト・ホテル)、ティモシー・スポール(ターナー、光に愛を求めて)ら。大幅減量で役に挑んだギレンホールの落選は残念。
■主演女優賞
マリオン・コティヤール(サンドラの週末)
フェリシティ・ジョーンズ(博士と彼女のセオリー)
ジュリアン・ムーア(アリスのままで)
ロザムンド・パイク(ゴーン・ガール)
リース・ウィザースプーン(Wild)
ここはほぼ前哨戦実績どおりの結果だが、重要3賞(アメリカ俳優組合賞、ゴールデン・グローブ賞、ブロードキャスト映画批評家協会賞)のすべてにノミネートされたジェニファー・アニストンの落選が持つ意味は大きい。この3賞で実績を残しながらアカデミー賞で落選する例はそれほど多くなく、アニストンの落選によって重要3賞の(アカデミー賞を占う上での)信頼性がやや失われたとみることもできる。
■助演男優賞
ロバート・デュヴァル(ジャッジ 裁かれる判事)
イーサン・ホーク(6才のボクが、大人になるまで。)
エドワード・ノートン(バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡))
マーク・ラファロ(フォックスキャッチャー)
J・K・シモンズ(セッション)
ここは順当。ロバート・デュヴァルと最後の椅子を競っていたジョシュ・ブローリン(Inherent Vice)が落選。
■助演女優賞
パトリシア・アークェット(6才のボクが、大人になるまで。)
ローラ・ダーン(Wild)!!!
キーラ・ナイトレイ(イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密)
エマ・ストーン(バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡))
メリル・ストリープ(イントゥ・ザ・ウッズ)
ローラ・ダーンが候補入りというビッグサプライズ。対象作「Wild」はこれまたFOXサーチライト配給の作品で、主演女優賞ノミネートも勝ち取っている。FOXサーチライト盤石。
代わりに落選はジェシカ・チャステイン(A Most Violent Year)。前哨戦ではローラ・ダーンの何倍も存在感を発揮していたが、作品の認知度の低さが仇となった。
■脚本賞
バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)
6才のボクが、大人になるまで。
フォックスキャッチャー
グランド・ブダペスト・ホテル
Nightcrawler
常連マイク・リーの「ターナー、光に愛を求めて」が落選。前哨戦では脚本賞にエントリーしていた「セッション」は脚色賞部門へ。
■脚色賞
アメリカン・スナイパー
イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密
Inherent Vice
博士と彼女のセオリー
セッション
前哨戦でぶっちぎりの独走を見せていた「ゴーン・ガール」が落選するという衝撃。ニール・パトリック・ハリスにはぜひとも授賞式でジョークのネタにしていただきたい。
■長編アニメーション映画賞
ベイマックス
The Boxtrolls
How to Train Your Dragon 2
Song of the Sea
かぐや姫の物語
祝!「かぐや姫の物語」ノミネート!
そしてなぜか大本命「LEGOムービー」がシャットアウト。悲しむべきことだが、見方を変えれば「かぐや」にとって最大のライバルがいなくなったということ。混戦模様でチャンス到来。
■長編ドキュメンタリー映画賞
Citizenfour
Finding Vivian Maier
Last Days in Vietnam
セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター
Virunga
注目していた2本がともに落選。日本でも公開された「ホドロフスキーのDUNE」と、映画批評家ロジャー・エバートの活動を追った「Life Itself」は、ともに映画を題材としたドキュメンタリー。とくに後者は前哨戦でもエドワード・スノーデンの告発を描く「Citizenfour」と並んで実績を残していただけに、落選が悔やまれる。