【第87回アカデミー賞予想 長編ドキュメンタリー映画賞】 エドワード・スノーデンの歴史的告発に密着した問題作が大本命
■長編ドキュメンタリー映画賞ノミネート作品
【解説】
何とも残念なのは、映画製作者の執念を描いた「ホドロフスキーのDUNE」と、映画批評家の情熱を描いた「Life Itself」の落選。日本公開済みの前者は多くのカルト映画を生み出してきたアレハンドロ・ホドロフスキーという映画監督の個性が楽しいエンタテインメントとしても一級の作品だった。後者は2013年に惜しまれつつこの世を去った名物映画評論家ロジャー・エバートの最後の4ヶ月間を描く作品。歯に衣着せぬ映画批評で多くの映画ファンをとりこにしてきたエバートの映画に対する情熱がほとばしると評判で、前哨戦でもトップクラスの実績を残していただけに、選から漏れたことは返す返すも残念だ。
さて、その「Life Itself」と前哨戦で互角の勝負を繰り広げたのが本命視される「Citizenfour」だ。時のひとエドワード・スノーデンがアメリカ国家安全保障局(NSA)の個人情報収集を告発するまでを追う内容で、2013年6月の告発から半年前に撮影をスタートし、世界を揺るがす告発の半ば共犯者になるという衝撃的な映画だ。女性監督ローラ・ポイトラスはもともとNSAの監視対象となっていた問題児で、今回の件で身の危険を感じ、しばらくアメリカ国内に足を踏み入れるのを控えていたという。今回、栄えあるアカデミー賞授賞式には当然出席を予定しているだろうが、危険をかえりみず自らのメッセージを発信した彼女がどんなスピーチをするのか注目したい。
レオナルド・ディカプリオが製作総指揮を務める「Virunga」は、劇場公開と同時にNetflixで配信されたことでも話題になった。ビルンガ国立公園で横行するマウンテンゴリラの密猟を告発する内容だが、同様のジャンルで思い出されるのは日本のイルカ猟を告発して09年に同部門を受賞した「ザ・コーヴ」。ほか、動物の生態にフォーカスした作品には05年の「皇帝ペンギン」があり、動物モノは比較的受賞しやすい傾向にあると言える。
今年夏の日本公開が決まっている「セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター」は、ヴィム・ヴェンダース監督が手がけるドキュメンタリー。ヴェンダースは過去にも「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」「Pina ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち」で2度この部門でノミネートされている。キューバ音楽の巨匠、ドイツの振付師にスポットを当ててきたヴェンダースが今回密着したのは、ブラジル人写真家セバスチャン・サルガド。地球の美しさを探求するサルガドの姿を追いながら、人間世界に潜む根源的な問題を提起する。前哨戦では目立った活躍がなかったが、ヴェンダースの知名度で逆転を狙う。
【予想】
◎Citizenfour
○Virunga
▲セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター