【第87回アカデミー賞予想 監督賞】逃げるリンクレイター、追うイニャリトゥ。オスカー像を手にするのは?
■監督賞ノミニーと過去のアカデミー賞実績
⇒アカデミー賞実績
02年「ザ・ロイヤル・テネンバウムス」(脚本賞ノミネート)
13年「ムーンライズ・キングダム」(脚本賞ノミネート)
アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ(バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡))
⇒アカデミー賞実績
07年「バベル」(監督賞ノミネート)
リチャード・リンクレイター(6才のボクが、大人になるまで。)
⇒アカデミー賞実績
05年「ビフォア・サンセット」(脚本賞ノミネート)
14年「ビフォア・ミッドナイト」(脚本賞ノミネート)
モルテン・ティルドゥム(イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密)
⇒アカデミー賞実績
なし
ベネット・ミラー(フォックスキャッチャー)
⇒アカデミー賞実績
06年「カポーティ」(監督賞ノミネート)
【解説】
前哨戦をほぼ総なめするかたちで牽引してきたのはリチャード・リンクレイター(6才のボクが、大人になるまで。)。最重要前哨戦のうちふたつ、ゴールデン・グローブ賞とブロードキャスト映画批評家協会賞を制し、NY・LA両海岸をはじめとしたほぼすべての批評家賞を受賞し、ライバルを大きく引き離した。完全な独走状態で、その時点でリンクレイターの受賞を疑う者は誰ひとりいなかっただろう。しかし、最後の重要前哨戦となる全米監督組合賞をアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ(バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡))が受賞したことで形成が一変。全米製作者組合賞の作品賞も合わせて「バードマン」が受賞し、流れは一気に「バードマン」に向き始めた。
その「バードマン」はともすればハリウッドへの痛烈なアンチテーゼとして業界の批判を浴びても不思議ない内容なのだが、業界人が投票する組合賞でこれほどまでに愛されているというのは、逆にその歯に衣着せないメッセージが内輪受けしているということだ。アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥというメキシコの雄が外側から見たハリウッドが、単なる皮肉ではなく、映画人、ひいてはメッセージを発信する表現者たる人間の内面を描くドラマにまで昇華されていることが愛される理由かもしれない。ちなみにメキシコ人監督といえば、昨年、「ゼロ・グラビティ」でアルフォンソ・キュアロン監督が同賞を受賞したばかり。2年連続でメキシコ人監督の手にオスカー像が渡るのか注目される。
アカデミー賞実績もあるイニャリトゥに現時点での勢いがあるとはいえ、前哨戦での実績は圧倒的にリンクレイターが抜けており、たったひとつの前哨戦で形成が逆転したとまで分析するのは行きすぎかもしれない。そもそも、今回リンクレイターがこれほどまでに評価されているのは、「ビフォア〜」シリーズに代表されるような“誰も成しえなかったこと”を形にしてきたこれまでのキャリア全体に対するものという意味合いが強い。12年間の映画製作という本来の映画ビジネスの常識を覆した今回の試みは、異形にして偉業であり、リンクレイターという変則的フィルムメイカーの集大成として評価されているのだ。問題は、老齢者が多いアカデミー会員が、その異形をすなおに偉業と受け取るかどうかだろう。これまでのフィルモグラフィはどちらかというと批評家受けする尖った作品の多いリンクレイターだけに、好き嫌いは分かれるかもしれない。
【予想】
◎リチャード・リンクレイター(6才のボクが、大人になるまで。)
○アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ(バードマン)
△ウェス・アンダーソン(グランド・ブダペスト・ホテル)