【第88回アカデミー賞】全部門ノミネーション予想!!

作品賞
revenant レヴェナント:蘇えりし者 – 12ノミネート
作品・監督・主演男優・助演男優・撮影・編集・美術・衣装・メイク・録音・音響編集・視覚効果
madmaxfuryroad マッドマックス/怒りのデス・ロード – 10ノミネート
作品・監督・撮影・編集・美術・衣装・メイク・録音・音響編集・視覚効果
themartian オデッセイ – 7ノミネート
作品・主演男優・脚色・美術・録音・音響編集・視覚効果
spotlight スポットライト 世紀のスクープ – 6ノミネート
作品・監督・助演男優・助演女優・脚本・編集
bridgeofspy ブリッジ・オブ・スパイ – 5ノミネート
作品・助演男優・脚本・美術・録音・作曲
bigshort マネー・ショート 華麗なる大逆転 - 5ノミネート
作品・監督・助演男優・脚色・編集
room ルーム – 4ノミネート
作品・監督・主演女優・脚色
brooklyn Brooklyn – 3ノミネート
作品・主演女優・脚色

 
近年まれにみる大混戦。
前哨戦主要3賞の結果は見事に割れた。アメリカ製作者組合賞を「マネー・ショート/華麗なる大逆転」が、ゴールデン・グローブ賞を「レヴェナント:蘇えりし者」が、ブロードキャスト映画批評家協会賞を「スポットライト 世紀のスクープ」がそれぞれ受賞した。主要3賞すべての結果が割れるのは珍しく、おまけに10部門で大量ノミネートの「マッドマックス」も受賞の可能性があるときている。本当に予想が難しい。

とはいえ、下馬評で1番人気に推されて「レヴェナント:蘇えりし者」がもっともオスカーに近い存在と言えるだろう。ボックスオフィスでの大ヒットは決してマイナスにはならない。21世紀に入ってから作品賞受賞かつ1億ドル超のヒットとなったのは8作品あり、うち4本はノミネート発表前に1億ドル台に到達。ディカプリオ主演で作品賞を受賞した「タイタニック」「ディパーテッド」はともに大ヒットの実績を追い風にしている。「レヴェナント」にとって間違いなくマイナスなのは、昨年受賞したばかりのイニャリトゥ監督作であるということだ。さらに、プロデューサーのアーノン・ミルチャン率いるリージェンシーは、「それでも夜は明ける」「バードマン」と2年連続で作品賞を獲得している。3年連続という偏りをアカデミーが認めるだろうか?

「マネー・ショート/華麗なる大逆転」は有力作品の中でもっとも“今”を反映する映画であるのが強み。映画の舞台は2008年と少し前だが、大統領選挙の民主党指名争いで善戦するバーニー・サンダースが“格差社会の是正”をスローガンに掲げているように、今こそ語られるべき物語だ。アカデミー賞は振り返れば時代を映す鏡となっていることも多く、そういう意味では「マネー・ショート」が作品賞を受賞する可能性は低くない。ただ、サンダースの支持層が若者に集中し、高齢者層に受け入れられていない事実を思うと、高齢者ばかりのアカデミー会員たちが本気でこの映画の訴えを支持しているとは期待しないほうがいいかもしれない。ちなみにこの映画の製作もリージェンシーで、プロデューサーはアーノン・ミルチャンだ。この点も少なからず得票数に影響するだろう。

「スポットライト 世紀のスクープ」はアカデミー賞と相性のいいトロント国際映画祭観客賞で次点に入選。本国の批評家からは受賞した「ルーム」よりも高い評価で多くの賞を受賞している。こちらはカトリック教会のスキャンダルを暴く社会派映画だが、評価の焦点はむしろ権力に立ち向かう新聞記者たちの信念に向けられている。インターネット時代の到来で著しく変化してしまったジャーナリズムの本質を見直すという意味で、意義深い映画と評価されているのかもしれない。ともかく、アカデミーの高齢者層には大いに受けそうな映画ではある。

前哨戦では主に技術賞部門での活躍が目立ったとはいえ、「マッドマックス/怒りのデス・ロード」にも逆転の目は残されている。ボックスオフィスでの成功はもとより、映画の表現方法の枠を打ち破るかのような革新性はうるさ型の批評家たちさえも魅了した。その波は日本にも押し寄せ、少なくともインターネット上では2015年もっとも騒がれた映画であることに間違いない。後年、振り返れば、2015年を代表する映画は「マッドマックス」だという評価はあながち誇張でもないだろう。ただし、アカデミー賞では娯楽アクション映画、続編映画、リブート映画の類いは冷遇される傾向にある。「ディパーテッド」や「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」などはレアケースと言っていい。もっとも、イモータンジョーの支配を逃れたように、常識を打ち破る強さがこの映画にはある。大逆転のサプライズで授賞式を沸かせるシーンがあってもおかしくない。

その他4作品はほぼノーチャンスだが、唯一「オデッセイ」だけはわずかに逆転の目が残されているか。わかりやすすぎるほどのアメリカ万歳映画であることが一番のセールスポイント。ポジティブな主人公と映画のメッセージに反感を持つ者はおそらく皆無で、愛すべき映画なのは間違いない。重苦しいテーマの他作品にない楽観的なルックが得票につながるかもしれない。

結論、この大混戦を制するのは結局「レヴェナント:蘇えりし者」になる可能性が高い。イニャリトゥのドヤ顔を嫌う向きもあるだろうが、作品が持つ圧倒的な凄み、スケール感、ディカプリオのスターパワーはハンデを克服して余りある。

監督賞
lennyabrahamson_room レニー・エイブラハムソン(ルーム)
alejandro_revenant アレハンドロ・G・イニャリトゥ(レヴェナント:蘇えりし者)
georgemiller_madmax ジョージ・ミラー(マッドマックス/怒りのデス・ロード)
adammckay_thebigshort アダム・マッケイ(マネー・ショート 華麗なる大逆転)
tommccarthy_spotlight トーマス・マッカーシー(スポットライト 世紀のスクープ)

 
作品賞部門は四巴えの激戦だが、。ほとんどの批評家賞を制したジョージ・ミラー(マッドマックス/怒りのデス・ロード)と、監督組合賞やゴールデン・グローブ賞、英国アカデミー賞など主要賞を制したアレハンドロ・G・イニャリトゥ(レヴェナント:蘇えりし者)のどちらかがオスカー像を手にすることになるだろう。

前哨戦の実績を素直に信じるならば、イニャリトゥの勝利は容易く想像できる。ただし、昨年受賞したばかりという事実は決して小さくないハンデだ。過去、2年続けて監督賞を受賞したのは2人だけ。1940,41年のジョン・フォード(怒りの葡萄、わが谷は緑なりき)、1949,50年のジョセフ・L・マンキヴィッツ(三人の妻への手紙、イヴの総て)しかいない。ともに半世紀以上前のことで、実質、今の映画界のシステムでは2年続けて監督賞を受賞するなどほとんど不可能なことなのだ。実際、監督賞を受賞した翌年にノミネートされたケースすら、ここ30年で1度もない。そのくらい確率の低い難業だけに、もし本当に2年連続の受賞となれば、まさに驚くべき快挙だ。アレハンドロ・G・イニャリトゥという名前はアカデミー賞の歴史に燦然と輝くことになるだろう。問題はアカデミーがそれだけの偉業をメキシコ人に許容するかどうかだ。何しろ、一昨年のアルフォンソ・キュアロン(ゼロ・グラビティ)もメキシコ人。3年連続はさすがにアカデミーも許容しづらいのでは?

一方のジョージ・ミラーは初監督から45年以上のキャリアを持つ大ベテランだが、監督賞部門では初のノミネート。07年に「ハッピーフィート」で長編アニメ賞を受賞、93年の「ロレンツォのオイル」(脚本賞)、96年の「ベイブ」(作品賞、脚色賞)でそれぞれノミネート実績がある。長いキャリアの割に寡作で、これまでに長編実写映画は7本しか監督していない。そのうち4本が「マッドマックス」シリーズということで、今回の「怒りのデス・ロード」はまさにキャリア集大成と言える作品だ。オーストラリアが生んだレジェンドにリスペクトたっぷりの票が集まることは想像に難くない。問題は、対象作がボックスオフィスでのヒットを目指した純然たる娯楽大作だということだ。過去には、サマーシーズン興行で大ヒットした勢いのまま作品賞を受賞するも、監督賞は逃した「グラディエーター」の例もある。ミラーが背負ったハンデもまた決して小さくはないものだ。

この熾烈な受賞争いにもしかしたら影響を与えるかもしれないのが、今行われている大統領選挙だ。共和党指名争いでトップに立つドナルド・トランプのメキシコ移民に対する過激な提言は話題を呼んでいる。アカデミー会員はリベラルな民主党員が多いと言われており、トランプのこの姿勢に異を唱える向きも多かろう。3年連続でメキシコ人にオスカー像を授与することは、アカデミーがトランプのような内向きの保守志向でないことをアピールする格好の機会となる。同じ理屈で、演技賞部門に黒人俳優がひとりもいないことで批判が上がっていることも、逆にイニャリトゥの受賞を後押しするかもしれない。

主演男優賞
bryancranston_trumbo ブライアン・クランストン(Trumbo)
mattdamon_themartian マット・デイモン(オデッセイ)
leonardodicaprio_revenant レオナルド・ディカプリオ(レヴェナント:蘇えりし者)
michaelfassbender_stevejobs マイケル・ファスベンダー(スティーブ・ジョブズ)
eddieredmayne_thedanishgirl エディ・レッドメイン(リリーのすべて)

 
前哨戦を独走したレオナルド・ディカプリオ(レヴェナント:蘇えりし者)が悲願のオスカーに王手。これまですへての感情をセリフに乗せてしゃべりちぎってきたディカプリオだが、そんな彼にオスカーをとらせるなら黙らせるべきだと発見したイニャリトゥの作戦勝ち?

唯一の不安はこれまでディカプリオの受賞を阻止してきたアンチ会員たちの存在だが、かつてここまで前哨戦を圧勝してオスカーを逃したケースを見たことがなく、さすがに今回受賞できなかったら悪質なイジメを想像するしかない。

ディカプリオの受賞をよしとしない勢力があるとして、漁夫の利を得るとすればブライアン・クランストン(トランボ)か。業界内での人気・評価はきわめて高く、さらには映画界の偉人を演じているとあっては無視できない存在。打倒ディカプリオの一番手と見るべきだろう。

主演女優賞
cateblanchett_carol ケイト・ブランシェット(キャロル)
brielarson_room ブリー・ラーソン(ルーム)
jenniferlawrence_joy ジェニファー・ローレンス(Joy)
45years シャーロット・ランプリング(さざなみ)
siorseronan_brooklyn シアーシャ・ローナン(Brooklyn)

 
ここは前哨戦を圧勝したブリー・ラーソン(ルーム)で鉄板。演技賞部門のなかではもっとも堅い。助演男優賞ノミネートを逃した小さな相棒ジェイコブ・トレインブレイの分も票を集めるだろう。一応対抗馬はシアーシャ・ローナン(ブルックリン)と見られているが、逆転はほぼノーチャンスと見ていいだろう。

助演男優賞
christianbale_thebigshort クリスチャン・ベール(マネー・ショート 華麗なる大逆転)
tomhardy_revenant トム・ハーディ(レヴェナント:蘇えりし者)
markruffalo_spotlight マーク・ラファロ(スポットライト 世紀のスクープ)
markrylance_bridgeofspies マーク・ライランス(ブリッジ・オブ・スパイ)
sylvesterstallone_creed シルベスター・スタローン(クリード チャンプを継ぐ男)

 
ゴールデン・グローブ賞授賞式でも俳優仲間からスタンディングオベーションで迎えられた伝説のアクションスターが、もはや手が届かないと思われたオスカー像を手にする瞬間が現実味を帯びてきた。出世作となった「ロッキー」は作品賞、監督賞などを受賞したが、スタローン自身は主演男優賞、脚本賞ともに涙をのんだ。今回のノミネートはその「ロッキー」1作目以来30年ぶりとなるだけに、本人もまさかこんなチャンスに恵まれるとは思いもよらなかったことたろう。もちろん本人の熱演もあったが、今回は功労賞的な意味合いも大きく、授賞式での感動の瞬間が阻害されることは想像しにくい。とはいえ、過去には似たプロセスを歩みながら本番でしっぺ返しを食らったエディー・マーフィー(ドリームガールズ)の例もあるから油断はできない。あのときのマーフィーのように怒って途中退席なんてことがないように願うばかりだ。

助演女優賞
jenniferjasonleigh_thehatefuleight ジェニファー・ジェイソン・リー(ヘイトフル・エイト)
rooneymala_carol ルーニー・マーラ(キャロル)
rachelmcadams_spotlight レイチェル・マクアダムス(スポットライト 世紀のスクープ)
aliciavicander_thedanishgirl アリシア・ヴィキャンデル(リリーのすべて)
katewinslet_stevejobs ケイト・ウィンスレット(スティーブ・ジョブズ)

 
アリシア・ヴィキャンデル(リリーのすべて)は突如ハリウッドに現れた超新星だ。スウェーデン出身という出自のめずらしさも去ることながら、愛らしい美貌と確かな演技力を合わせもち、昨年「Ex Machina」のアンドロイド役で脚光を浴びたかと思いきや、「リリーのすべて」「コードネーム U.N.C.L.E.」と次々に大役をゲット。人気シリーズ最新作「ジェイソン・ボーン」にも出演を果たしている。助演女優部門はこうした将来性豊かな才能を青田買いする傾向があり、過去にもマリサ・トメイ(いとこのビニー)やアンジェリーナ・ジョリー(17歳のカルテ)がこの部門で才能を見い出されている。

前哨戦結果だけを見れば、ゴールデン・グローブ賞と英国アカデミー賞を制したケイト・ウィンスレット(スティーブ・ジョブズ)も遜色ないように見えるかもしれない。だがこの2賞は、アリシア・ヴィキャンデルがともに主演部門でノミネートされており、ライバルとの直接対決を制したわけではない。直接対決での戦績は明らかに分が悪く、ディカプリオとのアベック受賞でマスコミを喜ばせるシーンは期待薄だろう。

逆転があるとすれば、すでに青田買いの時期ではないものの、若く将来性豊かなルーニー・マーラ(キャロル)か。こちらも前哨戦では主演女優賞にノミネートされることも多く、役柄的には大きなアドバンテージがある。カンヌで女優賞受賞という実績も無視できず、2度目の候補でオスカー像をかっさらうシーンがあっても驚かない。

脚本賞
ブリッジ・オブ・スパイ
Ex Machina
インサイド・ヘッド
スポットライト 世紀のスクープ
ストレイト・アウタ・コンプトン

 
ここは「スポットライト 世紀のスクープ」が頭ひとつ抜けている。作品賞部門で有力視されていることはもちろん、台詞の多い作品とあって票は集まりやすいだろう。紛れがあるとすれば「ストレイト・アウタ・コンプトン」か。例の“ホワイトアカデミー賞”問題では、この映画の過小評価に支持層から怒りの声が上がった。ここで賞を与えてバランスをとろうとする動きがあってもおかしくない。

脚色賞
マネー・ショート 華麗なる大逆転
Brooklyn
キャロル
オデッセイ
ルーム

 
ゴールデン・グローブ賞を受賞した「スティーブ・ジョブズ」がまさかのノミネート落ちを喫したことで、「マネー・ショート 華麗なる大逆転」の受賞確率はグッと高まった。情報量の多いマイケル・ルイス原作をわかりやすく換骨奪胎した手腕、難解な業界用語を意外な方法で解説したユーモア加減など、評価すべき点は多い。
逆転を狙うのはドリュー・ゴダート(オデッセイ)。こちらも情報量の多い原作をわかりやすく見事にまとめあげた。ゴダートはもともと「エイリアス」や「LOST」などJ・J・エイブラムス組でドラマ脚本を担当。監督デビュー作「キャビン」が高い評価を受け、「ワールド・ウォーZ」など大作のシナリオを任されるにいたった。若くして実績は十分で、初ノミネートにしていきなりの受賞があっても不思議はない。

撮影賞
キャロル
ヘイトフル・エイト
マッドマックス/怒りのデス・ロード
レヴェナント:蘇えりし者
ボーダーライン

 
13回目の正直を狙うロジャー・ディーキンス(ボーダーライン)だが、この部門3連覇を狙うエマニュエル・ルベツキ(レヴェナント:蘇えりし者)がまたしても高い壁として立ちはだかる。実はここ2年もルベツキの前に苦杯を舐めており、今年も前哨戦をリードするライバルにやや遅れをとっている。ただ、そのルベツキもさすがに3年連続となるとすんなり得票とはいかないかもしれない。その場合はインパクトある画作りのジョン・シール(マッドマックス/怒りのデス・ロード)が受賞することになるだろう。
近年の同部門は、ブルースクリーンでの撮影が大半を占めた「アバター」の受賞に代表されるように、技術的な面が評価される傾向にある。自然光のみで撮影するという難しいチャレンジをものにした「レヴェナント」が上位にとられるか、決死のスタントを計算づくのカメラワークで捉え、大胆な色彩補正で異世界を思わせる世界を作り出した「マッドマックス」か。

編集賞
マネー・ショート 華麗なる大逆転
マッドマックス/怒りのデス・ロード
レヴェナント:蘇えりし者
スポットライト 世紀のスクープ
スター・ウォーズ/フォースの覚醒

 
スティーヴン・ミリオーネ(レヴェナント:蘇えりし者)以外は初ノミネートというフレッシュな面々。この部門は作品賞との紐付きが強い傾向にあったが、ここ5年は1回しか一致しておらず、かつての傾向もあまり意味がない。近年はとくにスピーディーにカット割りの多い映画が好まれる傾向にあり、見た目にも派手な「マッドマックス/怒りのデス・ロード」が受賞する可能性は高い。ちなみに初候補となったマーガレット・シクセルはジョージ・ミラー監督の奥方。夫婦そろっての受賞も十分。

美術賞
ブリッジ・オブ・スパイ
リリーのすべて
マッドマックス/怒りのデス・ロード
オデッセイ
レヴェナント:蘇えりし者

 
おそらく技術賞部門は「マッドマックス/怒りのデス・ロード」を中心に進むことになるだろう。技術賞が多く発表される授賞式前半戦は「マッドマックス」独走状態となるのではないか。この部門でも当然、圧倒的な存在感を発揮することになるだろう。独創的でインパクト抜群な車両デザインをはじめ、常識を打ち破る美術の数々は映画ファンの目に焼き付いている。時代劇モノが強い部門ではあるが、この独創性に太刀打ちできるライバルは見当たらない。
個人的には「オデッセイ」のプロダクションデザインにも同等の評価を与えたい。オレンジを巧みに使った宇宙服や青で統一されたインナースーツなど、洗練されたデザインがとにかくかっこいい。見た目のクールさもこの映画の成功に大きく寄与しており、オスカーにふさわしい働きと評価されて然るべきだ。

衣装デザイン賞
キャロル
シンデレラ
リリーのすべて
マッドマックス/怒りのデス・ロード
レヴェナント:蘇えりし者

 
「眺めのいい部屋」「ハワーズ・エンド」など一連のジェームズ・アイヴォリー作品で正統派の衣装をデザインしてきたジェニー・ビーヴァンが、あのブッ飛んだ「マッドマックス/怒りのデス・ロード」のデザインを担当しているというこのギャップ。完成品のクオリティはもちろんとして、畑違いのジャンルへの勇気ある挑戦だけでも一票を投じるに値する。
すでに3度の受賞を誇る大御所サンディ・パウエルが今年は2作品でノミネート。対象作の「キャロル」と「シンデレラ」はそれぞれ全く違うアプローチながら、その美しさには目を瞠るしかない。前哨戦では「シンデレラ」に票が集まっており、打倒「マッドマックス」をなし得るとすればこの作品か。

作曲賞
ブリッジ・オブ・スパイ
キャロル
ヘイトフル・エイト
ボーダーライン
スター・ウォーズ/フォースの覚醒

 
ここはすでにレジェンド化している2人の大ベテランによる争いとなる。御年87歳のエンニオ・モリコーネ(ヘイトフル・エイト)と84歳のジョン・ウイリアムス(スター・ウォーズ フォースの覚醒)。前者は絢爛たるキャリアをもちながら、いまだこの部門では無冠というからゆゆしき事態だ。2年前に名誉賞を贈られたとはいえ、今回賞を授与しないようなことがあれば、アカデミーは相応のバッシングを覚悟するしかないだろう。

ただ、ジョン・ウイリアムスにとっても代表作で節目の仕事となるだけに、シリーズファンからの熱い支持がありそうだ。長年コンビを組んできたスピルバーグとのジョイントを病気のため辞退(ブリッジ・オブ・スパイ)したが、それも万全の状態でこの「スター・ウォーズ」に賭ける意気込みによるものだったのかもしれない。

ちなみにその「ブリッジ・オブ・スパイ」をウイリアムスから引き継いだトマス・ニューマンも堂々たる仕事でノミネートを果たしている。今回で13回目のノミネートとなるが、何といまだに受賞はゼロ。「アメリカン・ビューティー」ゆ「ファインディング・ニモ」など印象的なスコアも数々残している名作曲家にそろそろオスカーをあげたいところだが…。

主題歌賞
“Earned It”(フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ)
“Manta Ray”(Racing Extinction)
“Simple Song #3″(Youth)
“Til It Happens to You”(The Hunting Ground)
“Writing’s on the Wall”(007/スペクター)

 
ゴールデン・グローブ賞を制した「007/スペクター」優位との下馬評だが、注目はむしろ市場ではまったく存在感のなかった小品「The Hunting Ground」だ。主題歌を歌うのはレディ・ガガ。ゴールデン・グローブ賞ではレオナルド・ディカプリオとの確執が世間を騒がせたが、ここでも受賞を果たせばふたたびレオとのコンタクトシーンが生まれるかもしれない。という野次馬的な楽しみはさておき、本当に注目すべきはこの曲を作ったダイアン・ウォーレンのほうだ。スターシップが歌った名曲「愛はとまらない」(映画「マネキン」主題歌)、トンデモ映画を感涙ドラマに化けさせた「ミス・ア・シング」(映画「アルマゲドン」主題歌)を作曲した大ベテランが、初のオスカー穫りに挑む。先に挙げた2曲のみならず、これまで7度ノミネートされて受賞はゼロ。作品は知名度の低いドキュメンタリーだが、レディ・ガガの人気を借りて8度目の正直なるか。

メーキャップ&ヘアスタイリング賞
100歳の華麗なる冒険
マッドマックス/怒りのデス・ロード
レヴェナント:蘇えりし者

 
もともと“メーキャップ賞”だったが、4年前の第85回から現在の名称に変更。その前年、「マーガレット・サッチャー/鉄の女」で主演女優賞を受賞したメリル・ストリープが受賞スピーチで長年のヘアスタイリストに感謝の意を表明したことで、あらためてこの職種が見直されることになったと思われる。というわけで、ヘアスタイリングも重要なポイントとなるこの部門。昨年の受賞作「グランド・ブダペスト・ホテル」はまさにヘアスタイリングも大きな加点の要因となったはず。ただ、今年はその部分で突出した候補作は見当たらない。

となればメーキャップが争点だが、これも大きく2つの傾向に分けられる。“特殊メイク”と“リアル志向メイク”だ。2000年代初頭は特殊メイクに多くの票が集まったが、近年は傾向が逆転している。今年も目立った特殊メイクが施された作品はノミネートすらされず、リアル志向のメイクが賞を争う展開となっている。ここ3年はいずれも作品賞にノミネートされている作品が受賞していることから、作品のクオリティも得票に大きく影響しているのは間違いない。となれば「マッドマックス」と「レヴェナント」の一騎打ちの様相だが、インパクトに勝る前者に票が集まることになりそうだ。

録音賞
ブリッジ・オブ・スパイ
マッドマックス/怒りのデス・ロード
オデッセイ
レヴェナント:蘇えりし者
スター・ウォーズ/フォースの覚醒

 
音響編集層とのセット受賞になるケースが多い同部門。過去10年でセット受賞は6回を数えるが、例外の4回もその傾向ははっきりとしている。例外の4回で録音賞を受賞したのは「セッション」「レ・ミゼラブル」「スラムドッグ$ミリオネア」「ドリームガールズ」。つまり、ミュージカル映画など現場の音を大事にする音楽関連の作品が録音賞を受賞した場合、音響編集賞は他の作品が受賞するという傾向だ。今年は音楽関連の映画こそノミネートされていないが、現場でのリアリズムを追求した「レヴェナント:蘇えりし者」が該当する。前哨戦の最重要賞であるアメリカ録音監督組合賞を受賞していることからも、「レヴェナント」がこの部門を制する可能性は低くない。

だが、ライバルも超強力だ。最大の対抗馬は「マッドマックス/怒りのデス・ロード」。今年を代表するこの話題作は、技術部門を総なめする可能性もある。音響編集賞とのセット受賞を果たすならこの作品だろう。また、「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」が逆転するシナリオも十分にある。主要部門でのノミネートはなく、シリーズファンの支持が集中しやすい。ここを制するようなら音響編集賞もセットで受賞することになるだろう。

音響編集賞
マッドマックス/怒りのデス・ロード
オデッセイ
レヴェナント:蘇えりし者
ボーダーライン
スター・ウォーズ/フォースの覚醒

 
現場での生音にこだわった「レヴェナント:蘇えりし者」がこちらの部門もセット受賞する可能性は高くない。こちらはむしろ世界観の作り込みに最大限の貢献をした「マッドマックス/怒りのデス・ロード」もしくは「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」が有力だろう。

視覚効果賞
Ex Machina
マッドマックス/怒りのデス・ロード
オデッセイ
レヴェナント:蘇えりし者
スター・ウォーズ/フォースの覚醒

 
この部門での受賞を逃したら「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」が無冠に終わる可能性が高くなる。そんなことが起きたら、主要部門にノミネートがなかったことで上がったのと同じ悲鳴が再びアカデミー協会の耳をつんざくことになるだろう。視覚効果と言えば「スター・ウォーズ」シリーズの代名詞のように聞こえるが、それもエピソード4〜6の旧三部作までの話。ジョージ・ルーカスがデジタル化への移行をはっきりと打ち出したEP1〜3の三部作はこの賞を一度も受賞していない。EP3がノミネートすらされなかった事実は、時代がきっぱりと「スター・ウォーズ」の視覚効果にNOを突きつけた証左だった。しかし、ディズニーが新三部作で打ち出した“リアル志向”は、「スター・ウォーズ」の世界が本来持っていた魔法を甦らせた。世界中のファンを納得させた新たな世界は、卓越した技術力のみならず、かつて映画が持っていた魔法を取り戻さんとする確固たる信念により生み出された。今年、この賞を受け取るのは「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」であるべきだ。

外国語映画賞
MV5BMjIwNjA0NzM3Ml5BMl5BanBnXkFtZTgwNjU4NTQ0NzE@._V1_SX214_AL_ Embrace of the Serpent(コロンビア)
MV5BMTkwODUzODA0OV5BMl5BanBnXkFtZTgwMTA3ODkxNzE@._V1_SY317_CR2,0,214,317_AL_ 裸足の季節(フランス)
MV5BMTUxNjk0NTczMV5BMl5BanBnXkFtZTgwNzIzMTEzNzE@._V1_SY317_CR0,0,214,317_AL_ サウルの息子(ハンガリー)
MV5BMTYyNDg3ODAxMV5BMl5BanBnXkFtZTgwNTkyOTE2NjE@._V1_SY317_CR0,0,214,317_AL_ Theeb(ヨルダン)
MV5BMjA1ODY3NjQzNV5BMl5BanBnXkFtZTgwNjEzNTUxNzE@._V1_SX214_AL_ A War(デンマーク)

 
ハンガリー映画「サウルの息子」の勝利は九分九厘動かない。5月のカンヌ国際映画祭でグランプリを獲得。その後の前哨戦でも圧倒的な強さを見せつけており、他の追随を許さない。それに加え、この部門ではナチスドイツをテーマにした作品が受賞しやすいという明らかな傾向もある。主人公に張りつくカメラ、息づかいが聞こえてきそうなリアルな描写など実験的な要素も新鮮で、決してテーマやメッセージ性だけが売りの映画ではない。盤石の体制でポール・トゥ・ウィンを決めることになるだろう。

長編アニメーション映画賞
MV5BMTkyMzI2MzQ1N15BMl5BanBnXkFtZTgwNDg0MzQxNzE@._V1_SY317_CR1,0,214,317_AL_ Anomalisa
MV5BMTY4MTAwODg1NF5BMl5BanBnXkFtZTgwMTUyMDQyNzE@._V1_SY317_CR1,0,214,317_AL_ 父を探して
MV5BOTgxMDQwMDk0OF5BMl5BanBnXkFtZTgwNjU5OTg2NDE@._V1_SX214_AL_ インサイド・ヘッド
MV5BOTc1ODY5MTQ1Nl5BMl5BanBnXkFtZTgwMDM5ODI1NjE@._V1_SX214_AL_ ひつじのショーン バック・トゥ・ザ・ホーム
MV5BMTQ1ODY3MTc5MF5BMl5BanBnXkFtZTgwOTUyNDI2NTE@._V1_SY317_CR1,0,214,317_AL_ 思い出のマーニー

 
「思いでのマーニー」受賞なるか?と日本のマスコミは騒ぎ立てているが、実際のところ受賞の可能性はほぼゼロに近い。何しろ、ピクサー史上最高傑作との評価まで聞かれる「インサイド・ヘッド」が強すぎる。ここを落とすことはありえないと思ったほうがいいだろう。一応の対抗馬は変わり種「Anomalisa」だが、こちらも受賞の可能性はわずか。どう転んでも「インサイド・ヘッド」の受賞は動かない。

短編アニメーション映画賞
Bear Story (Historia De Un Oso)
Prologue
Sanjay’s Super Team
We Can’t Live without Cosmos
World of Tomorrow

長編ドキュメンタリー映画賞
Amy
Cartel Land
ルック・オブ・サイレンス
ニーナ・シモン 魂の歌
Winter on Fire: Ukraine’s Fight for Freedom

 
前哨戦をリードしたのは、歌姫エイミー・ワインハウスが27歳で夭逝する直前の姿に迫った「AMY/エイミー」。市場でも大ヒットを記録しており、実績・話題性ともに他をリードしている。これに続くのが、「アクト・オブ・キリング」の続編にあたる「ルック・オブ・サイレンス」。前作は一昨年の同部門で大本命視されながら受賞を逃すという憂き目にあっているだけに、今度こその受賞があるかもしれない。「ニーナ・シモン 魂の歌」はネットフリックスによるエントリー。ネット配信業界の雄がオスカー穫りなるかに注目が集まる。

短編ドキュメンタリー映画賞
Body Team 12
Chau, beyond the Lines
Claude Lanzmann: Spectres of the Shoah
A Girl in the River: The Price of Forgiveness
Last Day of Freedom

短編実写映画賞
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Shok
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