【第89回アカデミー賞最終予想】脚本賞、脚色賞
■脚本賞
▲テイラー・シェリダン(最後の追跡)
○デイミアン・チャゼル(ラ・ラ・ランド)
ヨルゴス・ランティモス、エフティミス・フィリップ(ロブスター)
◎ケネス・ロナガン(マンチェスター・バイ・ザ・シー)
マイク・ミルズ(20 Century Women)
シナリオは映画の命。作品賞受賞作は最良のシナリオからできているわけで、当然のように作品賞と脚本(脚色)賞部門の受賞作は多くの場合で一致してきた。過去10年を紐解いても作品賞と脚本賞の一致は実に9度にのぼる(ただ一度だけの例外は台詞のないサイレント映画「アーティスト」)。
であれば作品賞受賞間違いなしとされる「ラ・ラ・ランド」い死角はなさそうだが、実はひとつ嫌なデータがある。アカデミー賞では過去9度、ミュージカル映画が作品賞を受賞しているが、うち脚本(脚色)賞を同時に受賞した作品は2作品しかない(1951年「巴里のアメリカ人」、1958年「恋の手ほどき」)。他のジャンル映画に比べると、ミュージカル映画はこの2部門をセットで受賞する確率が低い。というより、明らかにミュージカル映画はシナリオが過小評価されている。そんなミュージカル映画の宿命とも言える周囲の評価を「ラ・ラ・ランド」は覆すことができるのか?
ライバルも強力だ。過去二度のオスカー候補実績を持つ名手ケネス・ロナガンの「マンチェスター・バイ・ザ・シー」は、この部門で票の集まりやすい人間ドラマ。昨年、傑作「ボーダーライン」を生み出したテイラー・シェリダンの「最後の追跡」も、今まさにアメリカが抱える問題を扱う優れた脚本だ。「ラ・ラ・ランド」を負かすとしたらこの2本のうちのどちらかだろう。
■脚色賞
▲エリック・ハイセラー(メッセージ)
オーガスト・ウィルソン(Fences)
○アリソン・シュローダー、セオドア・メルフィ(Hidden Figures)
ルーク・デイヴィス(LION/ライオン 25年目のただいま)
◎バリー・ジェンキンス、タレル・アルヴィン・マクレイニー(ムーンライト)
黒人が主役の映画が3本を占めるという今年を象徴するような脚色賞部門。ライバル「ラ・ラ・ランド」がいないここは「ムーンライト」受賞の大きなチャンスとなった。他の候補も軒並み作品賞ノミネート作とあって楽な戦いではないが、今年を代表する一本と高く評価されている「ムーンライト」がこの重要な部門を逃すわけにはいかない。
ライバル一番手は現在ボックスオフィスで大ヒット中の「Hidden Figures」か。監督も務めたセオドア・メルフィは前作「ヴィンセントが教えてくれたこと」も高く評価されており、作品およびノミニーの認知度では「ムーンライト」を凌ぐ。全米脚本家組合賞を受賞した「メッセージ」も逆転候補。脚本が評価されにくいジャンルというハンデを克服しての受賞もありうる。