第90回アカデミー賞ノミネーション考察
昨年は“Oscars So White”(白すぎるオスカー)と揶揄された前年の傾向に抗うように、過去最多となるアフリカ系アメリカ人のノミニー&受賞者を生んだ。当時のシェリル・ブーン・アイザックス会長が事前に改革を明言していたように、これはアカデミーの明らかな意思表示だった。
今年のノミネーションにもアカデミーの“意思表示”がくっきりと現れている。昨年秋にハリウッドの名物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインの長年に渡る性的虐待がスクープされたのを皮切りに、被害にあってきた多くの女性たちが声をあげ、SNS上でも「#MeToo」ハッシュタグとともに数多くの勇気ある告発と問題提起がなされた。そんな中で迎えたアカデミー賞ノミネーションは、明らかに女性たちがこれまで以上にクローズアップされる結果となっている。
もっとも顕著なのが撮影賞でノミネートされたレイチェル・モリソン(マッドバウンド 哀しき友情)。なんと90年にわたるアカデミー賞の歴史において、モリソンは女性として初の撮影賞ノミニーだ。撮影監督という職業は昔から男社会で、そもそも女性の撮影監督はとてもめずらしい。配信サービスの雄Netflixが制作した野心あふれる作品で、女性監督ディー・リースとタッグを組んで見事に史上初の快挙を達成した。
「マッドバウンド 哀しき友情」で撮影賞にノミネートされたレイチェル・モリソン
監督賞にノミネートされたグレタ・ガーウィグ(レディ・バード)も今年のアカデミー賞を象徴するひとり。女性としての監督賞ノミニーは、76年のリナ・ウェルトミューラー(セブン・ビューティーズ)、93年のジェーン・カンピオン(ピアノ・レッスン)、03年のソフィア・コッポラ(ロスト・イン・トランスレーション)、09年のキャスリン・ビグロー(ハート・ロッカー)に続く史上5人目となる。これまで女優として高い評価を得てきたが、長編監督デビュー作でさらなる才能が開花した。
「レディ・バード」で監督賞にノミネートされたグレタ・ガーウィグ(右)
作品賞を争う有力作がすべて“女性映画”なのも決して偶然ではないだろう。最多13部門にノミネートされた「シェイプ・オブ・ウォーター」をはじめ、6部門7賞ノミネートの「スリー・ビルボード」、5部門ノミネートの「レディ・バード」の3本が現時点での作品賞本命と目されているが、いずれも力強く生きる女性を描いた映画だ。女性を主人公にした映画が作られること自体がめずらしく、アカデミー賞の歴史においても、女性が主人公の映画で作品賞を受賞した例は、13年前の「ミリオンダラー・ベイビー」までさかのぼる必要がある。
1月に行われたゴールデン・グローブ賞で女優たちが一様に黒いドレスに身を包んで話題を呼んだように、今年のアカデミー賞も女性たちの一挙手一投足がクローズアップされることになるだろう。2年連続で司会を務めるジミー・キンメルもこの話題に触れないはずはなく、いったいどんなジョークでハリウッドの男社会を皮肉るのか注目される。とにもかくにも、今年のアカデミー賞授賞式は、女性たちの強さがあらためて世界に発信される忘れられない式典となりそうだ。