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「アリー/スター誕生」レビュー

映画レビュー 記事:2018.12.27

あまりにも映画が良すぎてとても140文字では伝えきれないので、この映画のどこが好きなのか、とりとめもなく書いてみます。鑑賞時のメモを片手にしつつも曖昧な記憶を頼りに書いている部分もあるので、間違いや勘違い等もしあったらご容赦ください。また、ネタバレを多分に含みますので、鑑賞前の方はご注意ください。

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まずは嘘のないライブシーン。
ブラッドリー・クーパーおよびレディ・ガガが劇中で立つステージは本当にライブが行われていた会場にゲストとして飛び入り参加してゲリラ撮影されたという。クーパー監督が本物を求めての決定らしいが、なるほど観客の反応や歓声は嘘をつかない。大観衆をCGで再現して当時の空気感さえ作ってしまえる技術がある今、本物のライブ会場で撮影した、という事実が映画の観客に与える感動はことのほか大きい。ましてやミュージシャンとして何の経験もないクーパーがぶっつけ本番であの大観衆を前に演奏していると知ったら、見ているこっちも緊張で手汗をかいてしまう!

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キャスティングにもクーパー監督の粋を感じる。まず何と言ってもジャックの兄を演じたサム・エリオット。カウボーイとしてのイメージが強く、これまでお世辞にも演技派とは評価されてこなかった老優が、まさかこれほど感動的な演技を見せてくれるとは!世間のイメージに縛られて苦しんだ過去を持つエリオットの起用は、ジャックの境遇を共感できるキャリアの歩みが理由ではないか。

クーパーが普段の声からかなりトーンを低くして喋っているのは、エリオットの声に寄せているからだそう。監督兼主演俳優が相手に寄せていくって、何という心くばり。共演者へのリスペクトがひしひしと伝わってくる。

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コメディアンとして栄光と転落を経験しているアンソニー・ダイス・クレイの起用も同じ理由に違いない。90年代に過度に攻撃的なジョークで一世を風靡した問題児が娘アリーの行く末を案じる良き父親を演じる日がくるなど、誰が想像できただろうか。

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ジャックの幼馴染を演じたデイヴ・シャペルも人気絶頂のさなかに引退宣言して一度は表舞台から去ったコメディアン。ショービジネスの酸いも甘い知り尽くす彼らの起用がただの偶然とは思えない。

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そしてもちろん、主演女優レディ・ガガに対する愛もほとばしっている。女優ガガに対する世間の厳しい目が向けられることがわかっている中、クーパー監督はファーストアピアランスからガガにこれ以上ない見せ場を与えている。トイレで携帯片手にひそひそ声で会話〜〜からの絶叫は、ガガの起用が間違いでなかったことを一発でわからせる力技!

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クーパー監督はとにかく俳優を活かす。例えば幼馴染役のデイヴ・シャペルが酔いつぶれたジャックを介抱しながら自らの人生観を語って聞かせるシーン。「目指してた場所がどこなのか忘れた。今が幸せで心地よすぎるせいだ。歩道で寝てるお前をみてそう思ったよ」。こんないい台詞を与えるだけでなく、その台詞を発するシャペルからカメラは目をそらさない。手前にいるクーパーはずっとオフフォーカスだ。

寂れた裏路地を歩くアリーにかぶせるように真っ赤なロゴでタイトル「A STAR IS BORN」。このときアリーが歌っているのは“虹の彼方に(Over the Rainbow)”。1954年版「スター誕生」に主演したジュディ・ガーランドが出世作「オズの魔法使」で歌ったのがこの歌だ。

ラ・ヴィ・アン・ローズを歌うアリーがバーカウンターに横になり、初めてジャックと視線を交わすシーンの美しさと言ったら。なぜジャックがアリーに惹かれるのか、合理的な理由なんて必要ないとすんなり納得できてしまう。

警官バーでの2人の会話シーンも絶妙。まず警官バーという設定がいい。さらに、絡んできた客に殴りかかるのがアリーという意外性ある演出も効果的。後に冷凍豆で腫れた拳を冷やすという可笑しな介抱まで含め、一連の流れが巧妙に計算されている。

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ジャックが生まれつき持つ聴力のハンディキャップは過去の映画にはない設定。映画のラストにジャックが下す決断の説得力に一役買っている。劇中、ジャックが相手の言ったことを聞き返すシーンが何度となく、しかし自然に挿入されている。

アリーのお父さんが仲間たちと見ているのが日本の競馬中継というのが面白い。だが、よーくテレビの画面を見ると、競走馬の名前が残念!漢字まじりの馬名“ヤコブの梯子”や、“ビッグゼフー”(ゼファーなら完璧だった)など、へんてこ馬名が並んでしまった。でもこんなミスも、好きな映画なら愛嬌に変わる。他の馬名も全部知りたい。

サム・エリオットが実は兄ボビーだというサプライズ演出。アリゾナの故郷めぐりから戻ったジャックがいきなりサム・エリオットに殴りかかるシーン、見ているほうは「!?!?!?!?」という不意打ちで、その後の2人のやりとりで「あんたが兄さんだったのか!」と驚くといううまい仕掛け。

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他にもこういうサプライズがいくつかある。例えば、朝方、ジャックが車でアリーを送り届けるシーン。アリーの家の前に立ち並ぶ高級車の列。ジャックも思わず「アラブの王族か?」とつぶやくが、観客も何事??と首をかしげたはず。

結果的にジャックにとどめを刺すことになるレズ・ガヴロンの感情なき瞳のなんとドス黒いことよ。演じるラフィ・ガヴロンはイギリス出身の29歳で、この映画を機に今後大活躍していくに違いない。プライベート画像を見るとわりとお茶目なので、やはりあのドス黒い感じは演技&演出による賜物だったと言えそう。

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ジャックのダメ描写も容赦ない。グラミー賞授賞式でのアレを頂点に、バスルームでのアリー罵倒や見苦しい嫉妬からのケーキ顔塗りたくりなど、思わず目を覆うダメっぷり。とはいえこのへんはまだ可愛いジャックを心の片隅に認識できるのだが、イケナイ白い粉の塊をブーツのかかとで砕いて吸い込むシーンなんかにはドキリとさせられる。子犬みたいな目に騙されるな。こいつはある側面では本当のクズなんだという突き放した描写がすごい。

泥酔後に幼馴染の家で介抱され、アリーにお迎えに来てもらうジャック。そこでおもむろに幼馴染に“ペンチはないか?”なんて聞き出すものだから、またイケナイ白い粉を砕こうとしてるんじゃないだろうな!と心配していたら何と…!一挙手一投足にハラハラさせて、挙げ句とてつもなくデカいリターンをお見舞いするジャックはやはり危険人物。我が子を愛するのと同じ感覚なのだろうなと。

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そして結婚式のシーン。誓いの言葉をたてた後にジャックの顔を見据えるアリーをカメラは正面からまっすぐに捉える。これがラストカットとの対になっていて、二度目の鑑賞では感涙を禁じえない。

グラミー賞でジャックがギター伴奏する曲が「プリティ・ウーマン」というのも気が利いている。ジュリア・ロバーツ主演で大ヒットした映画の設定は、そのままこの映画に置き換えられる。もっとも、あちらの映画は正真正銘のハッピーエンドで、まさにジュリア・ロバーツというスターが誕生したが…。

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リハビリ入院中にジャックが幼少時代の自殺未遂エピソードを語る。結末を知っていても、まさかこれが伏線になっていると気付けなかった。あくまでジャックのキャラクターを語る手段としての会話に伏線を忍ばせる脚本の妙に拍手。

退院したジャックを兄ボビーが車で送る。「俺たち2人のバンドが売れなかったのはバンド名が悪かったからか?それとも親子に見えたからか?」車中の会話ですでに涙腺がヤバくなりかけてるところに、別れ際のジャックが「俺が憧れてたのは兄さんだ」。サム・エリオットの目が真っ赤に腫れている!見ているこっちの目も真っ赤に腫れている!

アリーがヨーロッパ遠征キャンセルをジャックに告げて、「うれしい?」と聞く。「そうだな」と返事をする前に、ジャックがつばを飲み込んで大きく喉仏が上下する。すでにあることを決断しているジャックの心情を機微な表情と動作で演じるブラッドリー・クーパーすごい。

ガレージから車を出すジャック。1976年のバーブラ・ストライサンド版を鑑賞している人間なら、この先のジャックの行動が即座に頭に浮かぶ。が、ここでジャックは車を停めてガレージに戻る。これも意外性のあるうまいミスリード。

愛する者の死に打ちひしがれるアリーの描写は演出も難しかったと思うが、素晴らしいと思ったのは、同僚ラモンがアリーを慰める一瞬のシーン。中盤以降、出番のなくなっていたラモンをここで再び登場させる気配りよ。そしてその後にダメ押しとばかりにサム・エリオットの独白見せ場シーンが。ブラッドリー・クーパー監督はどこまでも俳優の味方。

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そしてラストシーンとなる追悼コンサート。ジャックがアリーへの思いを込めて作ったあの曲が披露される。カメラは亡き夫を思い歌うアリーの表情をまっすぐに捉えて話さない。フラッシュバック映像をはさんで泣かせにかかるのが定石だが、そういう湿った演出は極力避ける(フラッシュバックは計3回のみ)。

最後はカメラ=観客にまっすぐな視線を向けるアリーの瞳でフィニッシュ。結婚式のシーンと対の構造だが、アリーの視線および想いが向かう先はまったく異なる。
「魂の底まで歌わなきゃ長続きしない。何故とかいつまでとか気にするな。歌え。君の歌は天が授けたんだ」
ジャックが遺した言葉を胸に歌い続ける人生を決意した力強い瞳。まさにここでスターが誕生した。

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そもそも、ブラッドリー・クーパー監督のこの映画への姿勢からしてすでに心酔させられているわけで。

まずもって、この企画を初監督作として引き受けるという度胸がすごい。
半世紀以上に渡って愛され続ける古典の再映画化で、しかも師匠であるクリント・イーストウッド監督の後を継ぐかたちという、比較対象が巨大するぎるあまりに高いハードルが目の前にそびえていたはず。旧作ファン、イーストウッド信者の双方を黙らせるほどの傑作を監督一年生のクーパーが作り上げてしまうなんて、誰が想像しただろうか?

また、違う業界ですでに大スター認定されているレディ・ガガを主演女優に抜擢したのも、とてつもなく勇気のいる決断。TVシリーズへの出演実績があるとはいえ、世間のイメージは、奇抜な衣装に身を包む話題先行型シンガー(すみません、そう思ってました)だったのではないか。そのガガを抜擢し、うるさ型の映画通からも絶賛される演技を引き出すとはただ者ではない。

この映画で誕生した本当のスターはブラッドリー・クーパー。次回作のハードルはさらに上がるが、それも軽々超えてしまうのだろう。


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