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第91回アカデミー賞授賞式について思うこと

アカデミー賞 記事:2019.02.26

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開催前からこれほどすったもんだを繰り返した授賞式も記憶にない。第91回アカデミー賞授賞式は事前から大きな不安を抱えたままスタートした。

オープニングを飾ったのはクイーン+アダム・ランバートの歌唱パフォーマンス。実はこれも批判の対象となっていた。アカデミー協会はかねてからの命題である“授賞式の時間短縮”を本格的に断行する。ショウの華形である主題歌賞のパフォーマンスを削ろうとしたのだ。しかも人気曲である“Shallow”(アリー スター誕生)と“All the Stars”は残し、それ以外の3曲だけ削ろうとした。そうして出来た時間をクイーン+アダム・ランバートのパフォーマンスに当てようとしたのだが、これに映画ファンは猛反発。アカデミー協会は結局、主題歌パフォーマンスを削るという発表を取り下げた。※“All the Stars”はケンドリック・ラマーのスケジュールの都合でパフォーマンスは見送られた。

続いて登場したのは助演女優賞のプレゼンターである3人の女優。ティナ・フェイ、エイミー・ポーラー、マヤ・ルドルフはいずれもコメディー演技に定評のあるベテラン勢で、フェイとポーラーはゴールデン・グローブ賞で司会も務める経験豊富な人材だ。彼女らはさすがの手腕で会場を笑いに包むが、本来ならこれは司会者が担うべきパートで、ショウの顔となる見せ場。今年は人気コメディー俳優のケヴィン・ハートが司会に指名されたものの、その後自身のの過去ツイートが問題視されたため降板し、30年ぶりとなる司会者不在の授賞式となった。やはり司会者の軽快なトークがないのは寂しく、何とも味気ないオープニングとなったのは否めない。

その後もプレゼンターが入れ替わり立ち替わりで登場し、淡々と賞の発表が続けられていく。例年ならこの単調な繰り返しを緩和するため、随所で司会者が登場しては会場を和ませる様々な仕掛けが用意されているのだが、今年はその楽しみがない。例えば記憶に新しいのは、第86回授賞式で司会者エレン・ディジェネレスが客席のセレブたちと一緒に撮影したセルフィー写真。その場でTwitterに投稿されたその画像はまたたく間に世界中に広がり、一時Twitterのサーバーがダウンしかけるほどの話題となった。今年の単調な進行ぶりをみる限り、やはり授賞式に司会者は不可欠だ。

式の中盤、プレゼンターとして登場したタイラー・ペリーは、「この賞をCM中に授与せずにすんでよかった」と挨拶した。これもアカデミー協会が時間短縮のために断行しようとした悪改変によるものだ。撮影賞ほか4部門をCMブレイク中に発表・授与するという発表は、多くの映画人たちから批判を浴びた。結局この決定も撤回され、全24部門が無事に放送中に授与されることになった。アカデミー協会はこれまでもいわゆる“不人気部門”の発表・授与を何とか短縮できないかと試行錯誤を繰り返してきた。例えば、客席から壇上までの移動時間を削るために、最初から5人の候補者を壇上に立たせておいたり、逆にプレゼンターが客席近くで賞を発表したり。そのどれもが不評で翌年からは通常の形式に戻っていることを考えれば、ここは変更の余地がないことをそろそろ協会も認識すべきだ。

式も終盤にさしかかったところで、現アカデミー協会会長のジョン・ベイリーが登場。会長のご挨拶は毎年恒例なのだが、時間短縮が必須ならまずここを削ればいいだろうと誰もがツッコミたくなるはず。しかも今年は事前のいざこざで視聴者の敵意も避けられない。よせばいいのに…と思っていたら、実は昨年亡くなった映画人を偲ぶ追悼映像の紹介係としての登場を兼ねていた。苦肉の策に、舞台裏の苦労が見て取れる。

そんなこんなで今年の授賞式は思惑通りに大幅な時間短縮に成功したようだが、その代償はやはり大きかった。ショウとしての魅力も大幅に削られ、淡白な賞の発表・授与式という印象だけが残った。もちろん、それこそが授賞式の本来の目的ではあるのだが、本質は違う。世界中の人が見守る映画界の一大イベントだ。映画というものがどれだけ楽しく、豪華で、人々の生活の糧となっているのか。映画業界にとってはそのプレゼンの場でもあるはずだ。時間短縮という命題だけが先行し、本来の楽しさを失った授賞式はやはり寂しい。今年の授賞式がスタンダードとならないことを願うばかりだ。


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