第91回アカデミー賞結果
第91回アカデミー賞結果は以下の通り。
作品賞 : グリーンブック
監督賞 : アルフォンソ・キュアロン(ROMA ローマ)
主演男優賞 : ラミ・マレック(ボヘミアン・ラプソディ)
主演女優賞 : グレン・クローズ(天才作家の妻 40年目の真実)
助演男優賞 : マハーシャラ・アリ(グリーンブック)
助演女優賞 : レジーナ・キング(ビール・ストリートの恋人たち)
脚本賞 : グリーンブック
脚色賞 : ブラック・クランズマン
撮影賞 : ROMA ローマ
編集賞 : ボヘミアン・ラプソディ
美術賞 : ブラックパンサー
衣装デザイン賞 : ブラックパンサー
作曲賞 : ブラックパンサー
主題歌賞 : “Shallow”(アリー スター誕生)
メイクアップ&ヘアスタイリング賞 : バイス
録音賞 : ボヘミアン・ラプソディ
音響編集賞 : ボヘミアン・ラプソディ
視覚効果賞 : ファースト・マン
外国語映画賞 : ROMA ローマ
長編アニメーション映画賞 : スパイダーマン:スパイダーバース
短編アニメーション映画賞 : Bao
長編ドキュメンタリー映画賞 : Free Solo
短編ドキュメンタリー映画賞 : ピリオド 羽ばたく女性たち
短編実写映画賞 : Skin
第91回アカデミー賞を制したのは、粗野な白人と裕福な黒人の友情を描いた「グリーンブック」。60年代にキング牧師とともに公民権運動を戦ったジョン・ルイス議員が、“南部での人種差別は私も見に覚えがある”と振り返りながら同作を紹介すると、会場からは大きな拍手が贈られた。
今年のアカデミー賞の大きなテーマは、Netflix配信作品である「ROMA ローマ」がどこまで評価されるのか?だった。アカデミー賞は劇場用映画のためのものである、と声高に主張するスティーヴン・スピルバーグのように、ネット配信映画を同列に語るべきではないとする勢力は少なからずいる。最多ノミネートという評価で迎えられた「ROMA ローマ」だが、果たして何部門で受賞できるのか?
結果、「ROMA ローマ」は監督・撮影・外国語映画の3部門で栄冠に輝いた。これも大きな成果と言えるが、有力視されていた作品・脚本など主要部門を逃す結果には、やはり反勢力の影響を感じずにはいられない。真相は、単純に「グリーンブック」を愛する会員が「ROMA ローマ」を凌駕したというだけのことかもしれない。事実、アカデミー賞最大の登竜門であるトロント国際映画祭観客賞を受賞した「グリーンブック」は万人に愛される映画で、市場でも大ヒットしている。
実はこの数年、アカデミー協会が進めていたのが“多様性”改革だ。会員の大多数がWASPの白人で、ゆえに彼らが好む映画にしか受賞チャンスがないとする批判を重く受け止めた当時の会長シェリル・ブーン・アイザックスは、一気に1000人近くの多様な人種・性別にわたる新会員を招き入れ、会員構成を大幅に変革した。その結果、今年は目に見える変化が起きている。メキシコ映画である「ROMA ローマ」が最多ノミネートを受けたのも、その影響と言っていいだろう。アメリカ映画だけでなく、外国語映画も平等に評価される下地ができたのだ。ほか、ポーランドのパヴェウ・パヴリコフスキが監督賞にノミネートされ、撮影賞部門では3本の外国語映画がノミネートされている。
今回、初めてオスカー像を手にしたスパイク・リー監督はインタビューにこう答えている。“シェリル・ブーン・アイザックス会長がいなければ私はここにいなかった”。ことさら大きな批判の声を上げ続けたスパイク・リー、そして問題に即座に対応し、改革を進めたブーン元会長がいたからこそ、アカデミー賞は改革され、これまでオスカーを逃し続けてきたリーが初の受賞を成し遂げたのだ。リーが壇上で感情を爆発させたのは、単純な私欲の成就を喜ぶのではなく、同志たる黒人に道が開かれたことを喜んでいるに違いない。とても感動的なワンシーンだった。
“白すぎるオスカー”問題が引き金となった多様性改革が、アカデミー賞をかつてないほど開かれたものにしている。事実、今回の各賞の結果はこれまでのアカデミー賞のセオリーからすれば、予想が難しいものばかりだった。これはとても良い傾向だ。今回「グリーンブック」が受賞したことも、多様性に富んだ会員のいろいろな考えがある中で、シンプルに素晴らしい作品が選ばれたのだと素直に受け止めてもいいんじゃないかという気持ちになる。
これまではその偏った嗜好性が予想の大きな要因となっていて、それはそれで面白かったのだが、多様性の進むアカデミー賞にはより良い未来が待っている気がする。そう思えるだけでも今回のアカデミー賞は大きな収穫だった。